会うだけ(越前) 「絶対反対」 「…リョーマくん…」 「ダメ、絶対。」 …未成年者喫煙防止キャンペーンですか、リョーマくん。 高校に入学して1ヶ月、私は家もそれほど裕福ではないのでバイトをしたいと考えていた。 1つ年下の恋人、リョーマくんにどこにしようと相談したら…何故かバイトそのものを反対されてしまった。 「どこでしようとしてる?」 「ファミレスとか…」 「…変なのの溜まり場じゃん、ダメ。」 ぎゅっと抱きすくめられてしまう。 彼よりも小さい私は、どうも抵抗しても無意味になってしまう。 「リョーマくん…」 「バイトなんかしなくて良いじゃん。」 「だって…」 お小遣い少なくてリョーマくんとデートしたり出来ないんだもん。 デートのとき、おしゃれしたいし。 「…何、何考えてるの」 「なんでもないよ…」 「嘘。だってって、言ったじゃん。」 鋭い…。 年下なのにも関わらず、リョーマくんは鋭すぎて敵わない。 「…うち、あんまりお小遣い出なくてさ…。リョーマくんと…その、デートとか行けなくて…」 「…」 「だから働いて、お小遣い自分で稼ぎたくて…」 私がそう言うと、リョーマくんの腕の力が抜けた。 私はそっとリョーマくんの顔を見る。 「…リョーマくん…?」 「あんまり可愛いこと言わないでよ…」 口元に手を添えて、リョーマくんは私から目をそらした。 顔がほんのり紅い。 「…やっぱりバイトなんかいーよ」 「え…」 「俺は、会えるときに会って、こうやって夢と家でゴロゴロしてれば満足だけど?」 会えるだけで良いよ、と噛み砕いて言い直したあとについばむようなキスをされた。 …やっぱり敵わない。 「…わかった、バイトしない。」 「うん、そーして。」 「バイトなんかしたら会える時間減っちゃうよね」 「そうだよ。」 私も、リョーマくんに会えるだけで良いや。 再び抱き締めてくるリョーマくんの背に腕を回しながら、私は会えるだけでも幸せなんだって実感した。 - fin - |