隣の(仁王)



大根、にんじん、じゃがいも、たまねぎ、豚バラ薄切り、豚バラブロック、鳥むね肉、白菜、たくあん、キャベツ、牛乳、ほたて、つぶ貝、さつまあげ、たまご、なっとう、うどん…他。


…今のうちの冷蔵庫の中身。
あるだけ書き出して、何を作れるか思案する。
昨日安くて、つい買ってしまった。


「どうしよっかなー」


豚バラ薄切りと卵で…うどんでも作ろう。
そう思い立って、立ち上がる。

と、玄関のチャイムが鳴った。


「はーい…ちょっと、待ってくださーい」


玄関インタホンのカメラの画面を見てみる。
…と、見慣れた口元のほくろ。


「仁王」


慌てて玄関に向かい、扉を開けた。
そこには、頭ふたつ分くらい大きい影。


「どうしたの、仁王」
「木川、腹減った」


…その言葉を聞いて、玄関を閉めようとした…が、阻まれる。
それよか無理やり抉じ開けられた。


「飢えたクラスメイトを放るのか?」
「いや意味わかんないし!」
「何のために昨日あの荷物を運ぶの手伝ったと思ってるんじゃ。」


…そう、昨日の買い物。
多すぎた荷物を運ぶのに苦労していると、隣の住人がやたら親切に一緒に運んでくれた。
目の前の、クラスメイトで隣の住人が。


「…はぁ…うどんだけど、いい?」
「豚バラはたっぷりな」


こんの肉好きめ。
貴重な動物性タンパク質を小皿に取り分けながら、私はため息をついた。







「はい、出来たよ」
「ん、ご苦労さん。いただきまーす」


散らかっていたはずの机の上がいつの間にか片付けられていた。
隅に乗っていたものが追いやられている。

…それくらいはするのか、仁王でも。


「ん、なかなかうまいぜよ」
「…そりゃどうも…」
「おかわり」
「はや!」


…いくら何でも早すぎない?
そんなに早食いキャラでも、大食いキャラでもないだろうお前は。


「…本当にそんなに飢えて…」
「ん?寝坊してまんま部活行ったき、飯食ってなくて…」
「お馬鹿。」


大馬鹿。
汁まで空になったどんぶりを受け取りながら、そんな言葉を吐き捨てる。
仁王はへらへら笑って聞き流した。







「ご馳走さん」
「…お粗末様…」
「和食はえぇの。…ん?お前さん、食べたか?」
「あんた見てたらお腹いっぱいになったわ…」


作りながらでも人はお腹一杯になった錯覚を起こすのに。
あんだけ食べてるとこ見てたら…お腹一杯にもなるさ。

それでも実際に1杯は食べているから十分だけど。


「ふぃー、満足満足」
「じゃあ帰れ」
「…酷いのぅ、夢ちゃんは…」
「………鳥肌立った……」


鍋とどんぶりを洗いながらそう言うと、仁王は悪戯に笑う。
…何でヤツがモテるんだかわからないでも、ない。


「…のんびりしたら、帰ってよね」
「それまでに夕飯の時間に…」
「なる前に!」


油断も隙もない。
洗剤を洗い流しながら溜め息をつく。

食器を洗い終えて、振り返る。
まっすぐ視線の先には、ご飯を食べていた机。
荷物は机の上に戻っている。

いつの間に帰ったんだろう、と考えながら机に向かって歩いて行くと…それは違っていた。

寝てやがる。
私のベッドで。


「…ヤロウ。」


普段使っている、足元に追いやられた毛布をかけてやる。
気持ち良さそうに寝ている人を…例え仁王でも、例え私のベッドでも起こす気は起きなくて。

残念ながら私に仁王の寝顔を観察する趣味はない。

しょうがないから、私は台所に戻ってふたり分の夕飯の下ごしらえをすることにした。



(…どうしよう、和食しか思い付かない。)


誰だ、和食は良いとか言ったヤツ。






- fin -




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