きみがすき(丸井)




「丸井くーん、一緒に帰ろ?」


立海テニス部が休みの日…。
告知なんてされないはずが、どこからか聞き付けてくるのだろう。
…毎日ブン太は誘いを受けている。


「えー、無理だなー、それは」


困ったように笑いながら、ブン太はやんわり断った。
…我が幼馴染みながら、よくやるよ。
中学に入ってから、ブン太はモテるようになった。
小学生のころからそんな傾向はあったけど、中学に入ってからはあからさまだ。


「ブン太、帰るよ」
「おう!」
「ちょっと!なんで木川さんとは帰るのに私たちとは帰ってくれないの!?」


私と一緒に入り口に向かって歩き出したブン太の腕を、一緒に帰ろうと誘った子ががっしり掴む。
しっかり上目使い。
…女ってこわーい。


「何でっつーか、こいつとは行きも帰りも一緒だし。な?夢。」
「うん」


…やり取りはこれくらいで終わるはず…
なのに、その子はブン太から手を離さない。
ブン太は私を離してくれなくて…帰れない。


「たまに…いーじゃん!木川さんばっかズルいよ!」


…面倒臭いタイプ、来た。
こうなると私は巻き込まれ具合が激しい。


「…俺がこいつと一緒に帰りたいんだよ、いーじゃねーか」
「何で!?付き合ってるわけでもないのに!幼馴染みだからって…」


…確かに付き合ってもないのに毎日男女が一緒に帰るっておかしいのかなー、幼馴染みといえ。
そんなことをボーッと思ってみると、それに気付いたのか、ブン太に軽く睨まれた。
…ブン太が早く済ませないからだよ、まったく。


「…幼馴染みだからじゃねーよ。」


ボソッとブン太が呟く。
彼女への弁解…かと思ったら、チラッと私を見た。
…何だろ?


「俺、今こいつに片想い中なワケ。だから一緒に帰って帰路でアピール中。」
「…は…?何言って…」
「お前だって使う手だろい?」


ニッと笑って私の手を握るブン太。
彼女は流石にショックらしく、やっとブン太の腕を解放した。


「さ、帰るぜい」
「うん」


…実は。
ブン太が私を想ってくれていることは知ってた。
だから然程驚かないけれど…
でも、今でも一緒に帰るのはもう習慣になったからだと思ってた。
…まだ、私を好きでいてくれたんだ。

想いを告げられたとき、私はブン太を幼馴染み以外の何にも見えなかった。
だから断った。

…けど。


『俺、諦めないから』


そう言われて、一緒に帰るようになった。
惚れさせるから、覚悟しろって。
可笑しくて、笑っちゃった。
でも本人は至って本気で。

私も、そろそろ彼に答えを告げなきゃいけない気がしている。
…私が一緒に帰る理由。

ブン太に想いを伝えるため。







「寒い…」


はぁ、と息を吐くと白くなって、すぐ消えた。
始まったばかりの寒さに、少し震える。


「お前、マフラーもセーターも着てねぇじゃん!」
「だってここまで寒くなると思わなかったもん」


だから手袋もしてない。
…霜焼け決定だなー

手を見詰めてため息をつく。
すると、ブン太がそれに気付いたらしく苦笑いを見せた。


「手袋もかよ」


私の両手を取り、両手で擦ってくれる。
あったかい。
いつのまにか私のそれより大きくなった手は、相変わらずあたたかい。
ブン太は子供体温だなぁって言ったらバカ、て言われた。


「…ブン太」
「ん?」
「そろそろ、私も答え出さなきゃダメだよね」


私の手を擦っていてくれたブン太の動きが止まった。
見上げると、真剣な眼差しがまっすぐに私を見詰めている。


「…夢…」
「ん?」
「俺から、言わせて…」


ブン太がしていたマフラーが、私の首に掛けられて、ふわりと巻かれた。
その手を見詰めてみる。
手が止まると、再びブン太の顔を見る。


「俺…お前好き。」


マフラーに添えられていた両手が、肩に触れる。
一気に距離が近くなり、フワッとブン太の制汗剤の香りが鼻を抜けた。


「…夢は…?」


私の名前を言った瞬間、不安そうな顔になる。
誰もいない道路。
ブン太の声が響いた。


「私も…」
「も!?」


ブン太の声と顔が一気に明るくなる。
まだ途中でしょ、と思わず苦笑い。


「私も、好きだよブン太。」
「…マジ…?」
「マジ!」


ブン太はしばらく、唇を紡ぎ、歯を食いしばるようなしぐさを見せた。
それから…あっという間に私を抱きすくめる。


「やったー!!」


その声と共に、ブン太の腕に力がこもった。
ちょっと苦しいけど、嬉しいのは私も一緒だったから、素直にブン太の背に腕を回した。


「やべー、俺、今顔ヒデーよ、多分」
「何でさ」
「にやけまくり。自分で分かるくらい。」


それからまた、「やべー」と繰り返し続けるブン太。
…まったくもう。


「必要以上に幸せにしてやる!」
「…覚悟してます」


覚悟しとけー、と笑いながら私の頭を撫でる。


どれほどの覚悟がいるんだろ、ほんと。





- fin -




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