トクベツ(丸井)




「ちゃんと起こせよ…」
「起こしたよ!ブン太が起きないのが悪い!」

「…おーい、お前ら、仲良く遅刻するのはいーが…そのまるで一緒に朝を迎えました、みたいな会話止めろ。」

「「はぁい」」


まったブン太のせいで遅刻だよ!
昨日は遅くまでゲームに付き合わされて…私は時間に起きたのにブン太が起きてくれないんだもん!
起きれないならゲームなんてしなきゃいいのにさ。
先生にからかわれるし…

私とブン太は幼なじみ。
みんないいなぁ、って言うけどとんでもない!
格好良いのは見た目だけ!中身は本当お子さまなんだから!


「おはよ、夢」
「おはよ!由良」


私が席に向かうと、後ろの席の由良が話しかけてきた。
私の一番仲良しな友達。


「今日も旦那と朝を迎えちゃったわけ?」
「そんな怪しい言い方しないでよ!」
「えー、でも昨日は一緒の布団で寝たよな」
「ブン太もそういう勘違いされそうなこと言わないでよ!」


ブン太と私は本当にそんな関係じゃないんだから!
…正直、ファンが怖い…
わかってよ!


「別にブン太が良くて幼なじみやってるわけじゃないもん。」
「は…?何、お前嫌なの?」


長年付き合えばわかる。ブン太…怒ってる。
でも、私が悪いわけじゃないから引けない。
ブン太のせいもあるんだから!


「そんなこと言ってないでしょ?」
「言ってるじゃねーか!」


ガン、と乱暴な音を立ててブン太は来たばかりの教室を去って行った。
先生に追い掛けるように言われたけど、私はそこを動くつもりはなかった。






「夢〜、ちょっと良い?」


昼休み。
私が由良とお昼を食べていたとき、ブン太ファンの子達が話しかけてきた。
由良が心配そうに私の顔を見る。


「うん。…ごめん、行ってくる。」


こんな呼び出しは慣れて…ないよ。
いつもはブン太がそばにいたから、呼び出しなんてなかったもん。

ブン太はいない。
だから行くしかないんだ。

連れてこられたのは、人気の無い屋上。
…ブン太にも見つからずに済みそうだし、私にも丁度いいかな。


「あんた、調子乗ってるでしょ!」
「幼なじみだからっていつもブン太くんの側にいて…。」


…僻みじゃない。
ブン太なら話し掛ければ嬉しそうに笑ってくれるでしょ?


「私たちが話す隙がないのよ!」
「…今、ブン太に話し掛ければ良いじゃん。私いないよ?」
「はぁ!?今の話じゃなくていつものことでしょ?」
「知らないよ!私がいないうちに話して、私より仲良くなれば?」


バカみたい。
そんなことも考えられないなんて。


「ホントムカつく…!」


どん、と肩を押される。
いきなりだったから、バランスを崩して後ろに倒れてしまう。
後ろには金網。

ガシャン、と言う音と、背中に痛み。
…ぶつかったと思ったら、まだ後ろに下がる。


「…!?」


勢い良くぶつかって…金網が破れてしまったみたいだった。


…落ちる


なぜか私は冷静で。
むしろ私を押した本人たちのほうが驚いたよう。
スローモーションで後ろに倒れていく。

驚いた様子の彼女たちの肩の向こうに、赤い髪。
彼女たち異常に見開いた目。


「夢っ!!」


名前を叫ばれると同時に腕を引かれる。
…そんなに強く掴んだら痛いよ、ブン太…


「危ねぇな…ったく」
「ごめん、油断した…」


掴まれた、と思った次の瞬間には、ブン太の腕の中にいた。

ぎゅっとブン太の胸の辺りのシャツを思わず掴む。
怖かった…。
目に涙がたまって、ブン太の顔を見れない。
顔を伏せていると、シャツを掴んでいる手に顔が近づいた。

伝わってくる、ブン太の心音。


「…お前ら…」


声しか聞こえないけど…女の子たちに向かって、ブン太は言った。


「もう金輪際コイツに触るな。…俺の前にも現れるんじゃねぇ。」
「ブン太く…」
「呼ぶなよ。…さっさと消えろ」


本気で怒ったときの、強くて低い声…
パタパタと足音が去って行くのを聞きながら、私は顔をやっと上げた。


「…マジ焦った…」


ブン太は俯いて、私の額に自分の額を当てるようにしてため息を吐いた。
同時に抱き締める腕が強くなる。


「ごめん、ブン太…」
「夢…俺も、ごめん。」


…何でブン太が謝るの、と軽くブン太の背に腕を回しながら聞いてみる。


「…朝、俺キレて…」
「あ…」
「俺、お前が好きだから『俺と一緒にいるのは嫌』みたいな言い方されて…ショックでつい…」


…そういうことだったんだ。
それならますますブン太は悪くない。
全部私のせいだよ。


「ごめんね…。私も、ブン太好きだし…ブン太が幼馴染みで嬉しいよ。」


私の返事に、ブン太が私の体を少し離して顔を覗き込んだ。


「ライクじゃねーぞ…?」


不安そうな顔は、そのせいか。
思わず笑ってしまう。


「うん、わかってるよ」








「また遅刻ー!」
「ほら、叫んでねーで走るぞ!」


自然と手を引かれて…少し照れる。
階段をかけ上がってすぐ見える教室がうちのクラス。


「だぁー!おはようございまーす!」
「はい5秒遅刻!残念だったな、新婚夫婦」
「先生…!」


何で、と思ったら…そう言えば手、繋ぎっぱなしだったや。
クラスから笑いが起こる。
恥ずかしいな…


「さっき聞いたんだが、お前ら昨日付き合い始めたんだってなー」


ずっと付き合ってると思ってた、と先生。
…それで良いんですか?


「へへ、羨ましいだろい?」
「若いことが羨ましいな!」


先生は泣くふりをして教室をわかせたあと、ホームルームを始めた。


「もう、恥ずかしい!」
「いいだろい、ノロケたいんだ。」


へへ、と笑うブン太。
そんな風に言われたら…嫌なわけないじゃない。



付き合い始めたからって、ブン太のファンは減ることを知らず…寧ろ前より表情が柔らかくなったとかで増えてる気がする。
ただ、「部活の間待ってて!一緒に帰るんだから。…他の奴と何て帰るなよ?」なんて、ちょっとした束縛で私はブン太を信じることが出来た。


「帰ろーぜ!」
「うん」


今までと同じ帰り道。

手を繋いで、ゆっくり歩けば、まるで別な道。

幼馴染みだから特別。

恋人だから、特別。


いつだって、私はブン太のトクベツで、ブン太は私のトクベツ。






- fin -




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