だいじょうぶ(日吉)


※日吉夢って言うか、滝と日吉の友情ものです。







「日吉くんの、ばか!」




…3日前のその言葉を最後に、俺は夢に苛めかとまごうほどの無視を食らっている。
声を聞けない、喋れない、姿だって盗み見るだけ。

その不満は部活中でももちろん切り換えることなんて器用なことは出来ず、発揮されて部員たちは俺に話しかけようとしなかった。


…一人を、除いて。


「わか、顔が景吾より怖いよ」
「……滝さん」
「その眉間のシワはどうしたの?みんないつもより怖くていつも以上にわかと距離取ってるじゃない。」


親指で左右にシワを伸ばしながら、滝さんは笑った。
俺はため息をつく。


「うわ、名前『若』のくせに老けるよ。日吉老になるよ?」
「…放っといてください」
「放ってなんておけないよ。可愛い後輩が悩んでるわけだし。」


それに、と俺の顔から手を離し、指で額をつつきながらまた滝さんは悪戯っぽく笑った。


「夢ちゃんも、同じ顔してたから、事情聴取しなきゃ」


え。
…だって、あいつはいつも通り楽しそうに…

と、反論しようと顔を上げると、滝さんはその顔に苦笑を称えていた。
さっきまでの表情とは、まったく非なるもので。


「聞かせてくれる?俺が手を貸してあげれることならそうするから。」


結局、この人には敵わないんだ。





「それは…」


わかが悪いね、と続くと思いきや、滝さんは顔をしかめた。
それから、ふっと顔を緩めた。


「わかは、不器用だね」
「…は?」


―…夢の飼い犬が死んだらしい。
悲しむ彼女にかけた言葉が「不器用」の固まりだったと滝さんは主張した。


「わかは、夢ちゃんを元気付けたかったんでしょ?そこに悪気はない。」
「…はい」
「夢ちゃんもそれは知ってると思う。…でも、悲しみのあまりにその優しさを素直に受けとることが出来なかったの」


滝さんの言葉に、顔を上げる。
滝さんはフェンスの扉を開けて、俺を見て頷いた。


「わかなら、大丈夫」


幼いころからの、俺の呪文。
滝さんの大丈夫、があれば大丈夫。


「行ってらっしゃい」


滝さんに一礼して、彼が開いたドアから走り出した。
どこに、何だかはわからない。
でも、夢の元に。





「何や、また保護者やっとんのか」
「放っておけないもん」
「…滝は日吉も木川ちゃんも好きやもんなぁ…」
「ふふ…俺は可愛いものが大好きなんだよ」





- fin -




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