ヘタレな彼氏と切れ者彼女。(謙也)




俺の財布から野口が消えて、代わりに萩の手にはソフトクリームが現れたとき。
何でか始まった会話。


「ねぇねぇ謙也くん」
「……どないしよ、萩にそんな笑みを向けられると嫌な予感しかせぇへんわ」
「酷!」


だって、そんな眩しいほどの満面の笑みなんて。
…まぁ失礼な話やけど。


「謙也くんって、何でヘタレ呼ばわりされてるの?」
「ぶっ」


そーゆーことか、そーゆーことなんか。
吹き出してしまったお茶を拭きながら、萩は俺を見上げた。


「…本人に聞くなや。そう呼んでる奴らに聞いたらえぇやろ?」
「え、謙也くんはヘタレなつもりなの?」
「…自分で自分ヘタレいうやつがいるか」


…いや、いるかも知れへんけど。
少なからず俺自身にヘタレなつもりは毛頭ない。


「ふーん。」
「何やねん、いきなり。」
「いや?気になっただけー」


ソフトクリームに噛みつきながら、萩は笑う。
…ほんまに何やねん。


「まぁ、でも…」
「ん?」
「ヘタレな謙也くんでも、エクスタシーな謙也くんでも、お姉な謙也くんでも、私は謙也くんが好きだよ」


…思わぬ告白に、俺は立ち止まった。
萩はソフトクリームを食べながら歩き続け…やがて、振り返る。


「な、何やねん!」
「…私はね、ヘタレでも、私を好きでいてくれる謙也くんが好きだよ。」


クルッとまた進行方向に向き直る萩。
…そんな甘い言葉に何も返せへん、俺ってやっぱヘタレなんかなぁ…。

何と無くそう感じつつ、思い直すことなく、まぁ、えぇかとため息を溢したのははじめてで。

また振り返って俺を待つ、萩の元に急いだ。






- fin -







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