構って、(宍戸)



「いひゃい、いひゃいよひひろ!」
「ったく、これに懲りたらヤメロ。」


つねっていた頬を解放すると、萩は「ふふ」と笑いながら頬を擦った。
…ったく、コイツは…


「何で宍戸にイタズラしちゃダメなの?」
「…何でって」


そう言いながら、後ろから抱き着いてくる萩。
…いい加減にしろ、と言いかけた、そのとき。


「…私は、宍戸の気を引きたいんだよ」
「…はぁ?」
「だって宍戸、構ってくれないんだもん。テニステニスって…私だってテニス好きなのに、テニスに嫉妬させないで」


何だってんだ、コイツは…。
俺はため息を付ながら、後ろに貼り付いた問題児をベリッと引き剥がした。
その表情は、やや不満げ。


「俺が、いつお前を気にかけてないって言った?」
「…言ってないけどさ…」
「…意識してるんだよ、お前のこと、いつも…」


いつも、いつも。
気になるのは萩のことばかり。


「…嘘だ」
「嘘ついてどーすんだよ」
「イタズラ止めて欲しいだけでしょ?」
「それもあるけどよ…萩が気になってしょうがないのもマジだぜ?」


カアッと赤くなる、萩。
…なんだよ、それが目的なんじゃないのか、お前は。


「…つーか、何だよ『宍戸』って。よそよそしいな。」
「…いじけてたんだもん。」
「いじけるな」


…っていうか、それ以前に…


「泣くな」
「…無理っ」


今度は前から抱き着いてくる萩。
何と無く予想していた俺は、抱き止めた。
背中に手を回し、撫でてやる。


「不安、だったんだからね…」
「悪るかったよ」
「亮ちゃんのバカー…」


いつも通りの呼び方に、そっと胸を撫で下ろす。
…俺だって不安になった。

いきなり「宍戸」なんて呼ぶから。

幼稚舎から一緒にいる萩は、俺のことを最初から「亮ちゃん」と呼んでいた。
馴れ馴れしい、と子ども心に思っていたが…今はこれが萩の良さだと分かる。


「好きだよ、亮ちゃん。大好き。」
「ああ、俺も萩が好きだ…」


子どもっぽいイタズラを仕掛けてくる、いつも回りから一方踏み出しているような大人なお前が。
何より、誰より好きなんだ。

まるでやっと飼い猫を見付けた飼い主のような気分に浸りながら、萩の体を抱き締めた。




- fin -




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