甘さ控えず。(仁王) 「『2年のころから仁王様が好きで』…」 バシッ 「『愛しの仁王様…』」 ベシッ 「…何するのさ」 「音読すんな」 パキン、もぐもぐもぐ。 ばりばりに固まった、最早板チョコと変わらない、不健康な色に染まったハートのそれを、滝は躊躇い無く噛み砕いた。 甘い香りが部屋に広まる。 「んまいよ」 「…そか」 沢山積まれた包装紙と箱。 ざっと数えて193。 …うち、70は滝宛て。 123は俺宛て。 数で競争しよう、と珍しく挑戦的な滝に乗せられた結果。 …騙された。 奴はこの甘い物体を食べたかっただけ。 「仁王は食べないの?」 「甘いもんは好かん」 「うわ、人生大分損してる。」 「お前の人生は糖尿病で終わりそうじゃ」 相変わらずチョコを食べ続けながら、そんなことないと否定する。 …間違いなく血糖値は上がるはず。 「…怒ってる?」 「怒っとらん」 「不機嫌じゃん」 「そうじゃなか」 「あ」 食べるのを止めて、自分のチョコの山へ。 頂上に積まれた箱を手に、それを裏に表にひっくり返し、確認しながら元の位置へ。 「これなら食べれるよ」 「…は?」 「コーヒーリキュールと、赤ワインだもん。甘くない。」 …裏を見ても、成分表などない。 綺麗に包装された箱は、透明でもない。 そして、加減から見て市販されてるものじゃない。 「何で中身知っとるん?」 新しい箱のリボンをほどく滝に聞く。 滝はキョトン、と俺を見詰めたあとに極当たり前のように言う。 「だってそれ、私から仁王へのチョコだから。」 成る程。 それなら、どんなに甘くても食べれそうだ。 カウント数は、69vs124。 俺の勝ち、だけど、何か負け。 おまけ。 そういえば。 「のう、滝」 「何、仁王様」 もぐもぐ食べ続ける滝。 呼ぶ声に振り返るわけでもないが、無視されるわけでもないので話を続ける。 …少々の嫌みはご愛嬌だ。 「お前さんからの手紙はないのか?」 シンプルに、それでも可愛らしさのある包装。 開けずにそのままでいたそれに、手紙らしき影は無かった。 「無いよ」 「無いんか」 「何、」 トリュフチョコを摘まみながら、滝はこちらを向いた。 不適な笑みと共に、 「文章にしないと私の気持ちは伝わらない?」 なら書こうか?と意地悪な姫。 とうとう声が出なくなった俺は、砂糖過剰摂取中の彼女を抱き締めた。 - fin - |