アクリルの涙(幸村) 「止まらないの」 不思議そうにそう言って、滝は涙を流す。 表情なんてあったものじゃない。人形みたいだ。 はらはら、はらはらと落ちるそれは濁りも無く、限りなく透明で。 作り物…アクリルみたいだった。 「滝」 「なに」 「悲しいの?」 白の景色の中に、俺と滝の声だけが響く。 滝は俺の顔を見て、そうかも、と呟いた。 「ねぇ幸村」 「なに、滝」 「何で病気なの」 おもむろに俺の右手を両手で握りながら、滝は俺を見詰める。 まだ、頬を涙で濡らしながら。 「何でだろうね、わからないよ」 「治る?」 「わからない」 「テニス、できる?」 「…わからない」 「私と、一緒にいてくれる?」 その言葉にハッとする。 滝を見れば…顔が微かに歪んで、手も震えているようだ。 俺は滝の手を引いて、グッと距離を近付けた。 「一緒にいるよ」 滝、滝。 ねぇ、滝泣かないで。 俺のためなんかに、泣かないで。 「一緒に、いる」 「本当に?」 「病気も治すし、テニスも止めない。意地悪言ってごめんね」 手をそのまま引き寄せれば、素直に滝は近付いてきた。 涙はまだ止まらない。 「綺麗な涙」 「…ゆきむら?」 「でも泣かないで」 矛盾。 わかってるけど、どっちも本当。 「泣き止んで」 まだ零れてくる涙を舌で掬う。 滝は目を閉じて、ピクリと反応した。 「泣き止んだ?」 「…うん」 「じゃあ、抱き締めてあげる。」 …滝、 ううん、俺の愛しい萩。 君には俺しかいないように、俺にも君しかいないんだ。 いつか。 いつか俺の病気が治ったら、君の顔にも表情が帰ってくるのかな。 布団に染みた涙を見てから、俺はゆっくり目を閉じた。 その後アクリルみたいな涙は、然程時間をかけずに乾いてしまった。 固いアクリルの様に、俺の心にその記憶を残したまま。 - fin - |