優しいショコラ2


滝さんに作り方を教えて貰って…。
なんとか、完成させたチョコレート。
本番は1人で作ろうと思ったんだけど…やっぱり不安だから滝さんと一緒に作った。
…滝さんは自分が周りに配る分の小さなチョコレートケーキを作りながら、私のも手伝ってくれていた、だけど。

とうとう、渡さなきゃいけない日が来た。


「渡さなきゃいけないって…なんかの罰ゲームみたいだね。」
「え…いや、そういうわけじゃ…」


無いんですけど。
でも、確かに緊張して、…なんかもう、心臓が私のものじゃないみたいだ。


「はい、これ。」
「へ?」
「俺からのセンベツ。」


はい、と渡されたのは昨日滝さんが作っていた小さな包み。
可愛らしく包装されたその中は、ベイクドチョコレートケーキ。


「俺にできることはここまでだし…頑張ってね。」


そう言って笑って、ヒラヒラ手を振ると滝さんは行ってしまった。
ぽつん、と1人残される。

…滝さんに手伝ってもらったんだから、頑張らなきゃ!
何より、私の想いのために。







「鳳くん、これ!」
「あ、ずるい!鳳くん、お誕生日おめでとう!」


…甘かった。
私と同じ考えの子はたくさんいる。

そう、そして。

バレンタインよりなにより、今日は彼の誕生日なのだ。
次々渡されるプレゼントを鳳くんは笑顔で受け取っていた。
あの輪の中に入って、どさくさにまぎれて渡せば一番楽なのかもしれない。

…でも、それはやっぱり何か違う気がする。

そう、いろいろ自分の中で問答しているうちに、とうとう放課後になってしまった。
放課後になっても鳳くんの周りから女の子は消えない。


「…どうしよう。」


校舎の裏側。
テニスコートも見えない私の特等席でしゃがみこんで悩む。
滝さんから貰ったチョコレートケーキを一口食べてみた。


「…おいしい」


さすが滝さん。
甘すぎないそれは、本当においしくて。
朝の滝さんの「頑張ってね」と言う笑顔を思い出す。

…そうだよ、私はまだ何も頑張ってないじゃない。

そう思って、立ち上がる。
まだ、部活中のはず。

窓から校舎に入って、テニスコート方面を見る。


…と、動きを止めてしまった。


「…またすごい所から出てきたね、木川さん…」
「お、鳳くん…何で、ここに?」


そう、そこに鳳くん…訪ね人がいたから。
鳳くんはクスクス笑いながらこちらに向かって歩いてきた。


「うん、君がこっちに行ったって、目撃証言があったから」
「私?」
「そう。探しに来たんだ」


距離、1メートル。
今日一日恋焦がれていた相手は、手を伸ばせばきっと届きそう。
しかも、私を探していた、と言うものだから。


「え、と…何か、あった?」
「何か用事なのは、きみでしょ?」


…え?
今日一日、彼と話をした記憶はない。
…いや、用事はあるのだけど。

思わず右手に持った紙袋をさっと背後に隠し、目を逸らしてしまう。
鳳くんはそれを見逃さず、「何?」とにこやかに聞いてきた。


「えと、これは…」
「俺に、くれるんじゃないの?」


そんな彼の言葉に私は逸らしていた視線を彼に戻した。
鳳くんは…少し、悪戯っぽく微笑んでいる。


「…ずっと、渡すタイミングうかがってたんだけど…」
「うん」
「他の子に紛れて渡すのも嫌だし、どうしようかって思ってて…」
「うん、知ってる。」


あ、駄目だ。
なんか、泣きそう。
再び視線を落としながら、私は言葉を探した。


「…鳳くん、」


震える両手で紙袋を持って、ゆっくり鳳くんに差しだす。


「…受け取って、くれますか」


笑って渡したかったのに、多分、今すごくひどい顔してる。
視線だけじゃなく、顔まで下げながら私は必死に手を伸ばした。


「ありがとう、木川さん」
「あ、」


すっ、と手から紙袋が離れていく。
と、その紙袋が離れた手が、グイっと引かれた。


「っ!?」
「今年も、貰えなかったら、どうしようって思ったんだよね」
「…へ?」


貰えなかったらって…その前に、今年もって。
今抱きしめられていることも、その鳳くんの言葉も良く理解できなくて、私はパニック状態。
鳳くんはそんな私を見て笑いながら、私に分かるように話してくれた。


「君が去年別の奴にチョコレートを渡しながら告白してたころ。あのころ、俺君に片想いしてたんだよね」
「…えぇえ!?」
「フラれたって滝さんに聞いたとき、正直ちょっと嬉しかった」


性格悪いかな?と鳳くんは笑った。
そんなことない、と私は首を横に振った。


「それから君が滝さんと良く一緒に図書室にいることを教えてもらって…よく図書室に行くようにしたんだ。」
「…そ…」


そうだったんだ。まったくもって自覚が無い。


「1年以上、頑張って片想いしてみたんだけど…」
「…なんか、ごめんなさい。」
「でも、これは実ったと思っていいのかな?」


紙袋を揺らしながら、鳳くんは私に聞く。
私は首を縦に思いっきり振った。


「私も、鳳くんが好きだよ…!」
「そっか、よかった。」
「お誕生日、おめでとう…!」


私は遠慮することなく涙を流しながら、そう告げることしかできなかった。

そのあと、また校舎裏の一角に戻って私が作ったチョコレートを鳳くんが食べてくれた。
形も味もまだまだ滝さんには敵わないけど、鳳くんはおいしいよ、と言ってくれて…。


私のバレンタインは、去年と真逆の、この上なく幸せなものになった。










(いやぁ、今年もすごいね、ちょたファン。)
(…そうですね)
(そんなモテモテの長太郎くんに朗報。あなたの本当のヒロインは今頃校舎裏の一番大きい木の下で悩んでいるはずだよ。)
(…っ、)
(…行っといで。景吾には俺がどうにか言っておくから)
(お願いします!)




- fin -


ちょたって「宍戸さん!」以外に何しゃべってた?←





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