優しいショコラ





『はい、これあげるから、もう泣かないで?』


一年前のバレンタイン。
告白と一緒に散った手作りチョコレートを胸に抱いて、私は泣いていた。

すると、そんな私に気が付いた彼がくれた一口サイズのチョコレート。
甘くて少し苦い、コーヒーリキュール入りのトリュフチョコだった。






「滝さん!」
「あぁ、夢ちゃん、いらっしゃい」


図書室の受付。
滝さんが眼鏡を掛けて文庫本を読んでいた。

滝さんは私が呼び掛けると、顔を上げて手を振ってくれる。


「あ、今日はチョコチップのクッキー作ってみたんだ。食べる?」
「はい!」


可愛らしくラッピングされた小さな袋を貰う。
…去年のバレンタインに小さなチョコレートを貰って以来、私は滝さんが作ってくれるお菓子をよく貰うようになっていた。
滝さんが作るお菓子は見た目も味も完璧で…女子としては、本当に羨ましい限り。

滝さんにお礼を言って、頭を下げた後、本題に入ろうとしたとき…後ろから人の気配。


「あ、邪魔しちゃったかな」
「鳳くん…!」
「あれ、ちょた。貸し出し?珍しいね、いつもは読んでいくのに」


同じクラスの、鳳長太郎くん。
…今、一番気になる人。
もちろん去年フラれた人ではない。


「今日はちょっと時間が…生徒証です。」
「はい、じゃあ貸し出しね。…あ、ちょたもどうぞ」
「?何ですか?」
「チョコチップクッキー。」


本と一緒に、滝さんは鳳くんに私と同じようにラッピングされた小袋を渡した。
鳳くんは、「ありがとうございます」と微笑む。


「あ、木川さんも貰ったんだ?」
「う、うん」
「滝さんのお菓子、美味しいよね。」
「うん!」
「それは嬉しいな。ちょたは今までで何が一番美味しかった?」


滝さんが眼鏡を外しながら、鳳くんに聞いた。
鳳くんはえ?と微笑む。


「そうだな…どれも美味しかったですけど…。あ、あのコーヒーリキュールが入った…」
「トリュフチョコ?」
「はい!あれは特に好きです」
「そっか、じゃあまた作ってあげるね」


滝さんがそう言うと、鳳くんはありがとうございます、と笑って去って行った。
滝さんはクスクス笑っている。


「だ、そうだよ」
「…ありがとうございます」


…滝さんは、私の気持ちをもう知っていて、鳳くんのお気に入りのお菓子を聞いてくれた。
何となく恥ずかしくて、私は顔が熱くなった。


「作り方は教えてあげる。…今日の夜とか、暇?」
「はい!」


そう答えると、滝さんは笑顔でうなずいた。
それから、ふ、と目を伏せる。


「…いいこを好きになったね、夢ちゃん」
「え?」
「ちょたは優しくていいこだよ」


鳳くんが歩いて行った方向を指差して、滝さんはウインクした。
私は照れながら、笑い返した。


「自分でも、そう思います」
「そ?」
「好きでいれるだけで…こんなに幸せですから」


そっか、と滝さんは嬉しそうに笑った。


「じゃあ…ちょたが好きなもの、頑張って作ろうね」
「はい!」


渡す私も嬉しいけど…鳳くんに、喜んで貰えるように。
頑張らなきゃな、と私は小さく拳を握った。





- fin -

そしてこの晩作りました←
そしてそして季節外れにも程があるだろーぃ





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