君となら平気だよ




「大当たり〜!」


カランカラン、とベルが目の前で鳴る。
私と隣人…仁王は顔を見合わせた。

商店街の福引き。
1回分だけあったから引いてみた。
…ら、当たったらしい。


「バスツアーパックで行く遊園地1泊2日のペアチケットです!」
「え…」
「おめでとうございまーす!」


いいなぁ、と後ろの女子高生。
なら差し上げましょうか、と交渉しようと振り向こうとしたら、仁王に止められた。


「な、に、す、ん、の!」
「せっかく当たったんじゃ…2人で行こうぜよ」
「…は?」
「デートじゃ、デート」


…お前と付き合っているつもりはない!!
なんて大声では叫べず、私は仁王に手首を掴まれて家まで連行された。

…まぁ行くとするなら、女友達1人を贔屓するわけには行かないし、男子なら仁王くらいなもんだけど。
これがもし学校の仁王ファンにバレたりでもしたら…!


…考えるのはよそう。
取り合えず、仁王の指示通り、今週末の準備を始めることにした。


もう、どうにでもなれ。


…このとき、私は完全に忘れていた。
仁王と一緒ってことばっかりに頭が行ってしまって。

遊園地には、奴らがいることを。



「木川、ちゃんと準備しとるか?」
「……っ何で入ってこれるの!?」
「鍵、開きっぱじゃ。無用心じゃのう」
「…今隣人が危険人物なこと思い出したから次からは気を付けるわ。」
「酷いのう。」


くく、と喉を鳴らして笑う仁王。
何で仁王と遊園地なんか…


「なぁ、さっき気付いたんじゃが…」
「何?」
「これ、部屋ツインじゃ」
「…へ?」


つまり。


「…同じ、部屋?」
「そう言うことじゃの。まぁ、ダブルよりはいいが…」
「当たり前でしょ!?」
「…で、じゃ。こうなっては男として無理強いはできん。行くか?」


しゅん、と尻尾を下げた犬みたいにいきなりテンションを下げる仁王。
…何か…私が悪いことしてるみたいじゃん。


「別に……仁王が行きたいなら、いいよ。行こうよ。」
「ほんとか?」
「嘘ついてどーすんの」


ふい、と顔を背けて荷造りの続き。
…だから、このとき、仁王が嬉しそうに笑っていたのは、知らない。


「よし、じゃあ行くかの」
「うん」
「あ、今日の晩飯は?」
「……カツ丼」
「楽しみにしてるぜよ」


いつからうちは仁王の定食屋になったんだ。
…と、思いながら、仁王が材料費を持ってくれるものだから、2人分の買い物をしてしまう、私も私だよね…。






まず目に写ったのは、観覧車。
そのすぐ横にジェットコースターが数種類、他にもバイキング、メリーゴーランド、コーヒーカップ、チェーンタワー…。
メルヘンな色に囲まれた、そこは確かに遊園地。


「まずはどうするかのう」
「…仁王、ジェットコースターとか好きそう…って言うか、むしろ楽しみそうだよね」
「そうじゃの。メリーゴーランドなんかよりは好きじゃ」


それは私も同感だ。
メリーゴーランドなんて可愛らしいものは、私には似合わない気がするし。
取り合えず、バイキングやらチェーンタワーを経て、仁王は徐々にジェットコースターが連なるエリアに私を引っ張った。

…いや、これは手を繋ぐとか言う行為ではなく、あくまでも「連行」である。


「はしゃいじゃってまぁ…。ファンの子がみたらショックだと思うよ?」
「これが素じゃ。」
「そう。しかしほんと……に…」


私の視界に、「ヤツ」が入る。
私はその場に立ち竦み、仁王に掴まれた手がするりと抜けた。

仁王も立ち止まって、私の方を見る。


「木川?」
「に…お……」


私は、必死に指を差した。
仁王は私の横に並び、指の先を追う。


「…着ぐるみ?」


…そう、着ぐるみ。

私はその、なんのへんてつもない着ぐるみが、本当に苦手で。


「私…着ぐるみだけは…」


着ぐるみウサギが、こっちを向く。
私はその場にいることにすら恐怖を抱き、踵を返して駆け出した。


「木川!?」


仁王も、珍しく慌てた様子で私を追い掛けてきた。
走って、走って…振り返って着ぐるみが見えなくなったところで立ち止まる。
仁王はすぐに追い付いてきた。


「どうしたんじゃ、いきなり。」


私の手を…さっきとは違い、しっかり掴んで仁王は私の顔を覗き込んだ。
私は息を整えながら、仁王の手をギュッと握り返した。







「…着ぐるみ恐怖症?」
「……うん。」


近くにあったベンチに腰掛けて、話を始める。
幼い頃の私は、そりゃあ他の子同様、遊園地のキャラクターの着ぐるみが大好きで。
遊園地に連れてきてもらう度に着ぐるみを追い掛けて、写真を撮ってもらった。

でもある日、遊園地で迷子になってしまって。
その迷子が行き着いた先が…。


「…遊園地の着ぐるみの控え室、だったわけか」
「そう」


怖いおじさんたち(…今思えば失礼だけど)が、頭だけ取ってくつろいでいるところを見てしまって…。

それから、着ぐるみが苦手になってしまった。


「もちろん、今は中が人って知ってるんだけど…ほら、なんかトラウマになっちゃって…」
「そうか…」


仁王が買ってきてくれたウーロン茶を飲みながら、私はうつむき加減にうなずいた。
すると、ぽん、と頭に手を乗せられる。


「悪かったの。そうとは知らず、遊園地なんかに連れ出して…」
「別に、遊園地が嫌いな訳じゃないし…仁王は悪くないよ」


それに、と私は仁王から少し視線をずらしながら続けた。


「遊園地に着ぐるみが付き物だってこと、忘れるくらい楽しみにしてたんだから。」


仁王と、一緒に遊べること。
着ぐるみの一件で弱った私は…やけに素直だ。


「…ふ、可愛いの、夢ちゃんは」
「…可愛くないっ」
「じゃあ…せめてあれには乗ろうか」


あれ、と指差されたのは観覧車。
私は頷いて椅子から立ち上がった。


「幸い、あっちには奴らはいないみたいじゃし」
「…もう!」


笑う仁王につられて、私も笑う。
さっき、必死に握ってしまって、その前は無理矢理取られた手を素直に握る。
仁王はまた満足げに微笑んで、観覧車に向かって歩き始めた。







「うっわー…」


海の近くの遊園地。
夕陽が綺麗に見えるその時間帯、観覧車からのロケーションは最高で。


「すごい…!」
「ほう、なかなか綺麗じゃの」


高所恐怖症ではなくて、よかった。
夕日に反射してキラキラと輝く海は、本当に綺麗で。


「…木川、」
「何?」
「今日、楽しかったか?」


窓ガラスに貼り付いた私に、仁王はそう問い掛けた。
…仁王なりに、着ぐるみの件を気にしていてくれるようだ。


「楽しかったよ」
「本当か?」
「だから、嘘ついてどーすんの。…また、来ようね。」


逆光が眩しくて、仁王の表情は見えない。
でも、しばらくして「ああ」と言う返事が聞こえてきて、私は笑ってうなずいた。


また、2人で来ようね。





(着ぐるみいないとこ、調べてね)
(…明日の晩飯は肉うどん、で手を打とうかの。)



- fin -


着ぐるみが苦手なのは私です。
ディズ●ーランドなんて嫌いだ。←



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