神隠し的な恋 これは…きっと、世間で言う「迷子」というやつだ。 修学旅行の自由散策。 友達が、好きな芸能人がいる!と駆けていってしまったのに追いつかず、離れ離れになってしまった。 街の中を歩いていたはずなのに…何故か、ここは…森? 携帯でも何故か連絡できず、ただひたすら歩くだけ。 …きっと、いつか誰かが気付いて探してくれるかも知れないし。 「…それにしても…」 本当に、ここはさっきまでの街、なのかな? もしかしたら抜けてしまったかも知れない。 ふ、と振り返る。 …ただ、私が歩いてきた道が延々と続いているだけ。 歩き疲れた私は、道のすぐ脇にあった切株に腰かけた。 周りは異様なくらいに静かで…鳥の声と葉が擦れる音が響き渡る。 目を閉じてその音を楽しんでいると、ふ、と周りが陰になった。 私は思わず顔を上げる。 「…夢ちゃん?」 「…千歳くん!」 「こんなところで…なんばしよっと?」 目の前に現れたのは、同じクラスの千歳千里くん。 俺?と彼は自分を指さして笑った。 「俺は迷子中たい。」 「あはは、じゃあ私と同じだ」 「迷子×2、ねぇ…なんも解決にはいたらんが…なかなか楽しめそうたいね」 …そうかなぁ…。 とりあえず、私は立ち上がった。 「なぁ、夢ちゃん」 「ん?」 「君はこっちから…俺はあっちから来たんよね?」 「うん」 「じゃあ進むべきはそっちじゃなか?」 そっち、と千歳くんが指差したのは…いわゆる、獣道というやつ。 私は思わず千歳くんの顔を見た。 「本気?」 「本気ばい」 …みたいですね。 満面の笑みの千歳くんに手を取られ、その獣道に入っていった。 殆ど木陰になっていて、木漏れ日がたまに降ってくるだけの道。もう、どれくらい歩いたかな? さっきまでの暑さが信じられないくらい、涼しい。 「凄い…なんか、すごく綺麗だね…」 「ああ…。まるで映画の世界たい…」 奥まで進んで、小さな祠に辿り着いた。 シン、と静まり返ったその空間。 「こんなの、パンフレットに無かったよ?」 「俺も見覚えなか。…隠れた名所ってわけばいね」 千歳くんは興味深げに祠を見ている。 何か文章が書いてあるようで、それを読んでいるみたいだ。 読み終わったらしい千歳くんは顔を上げ、少し後ろにいた私に手を差し出した。 「おいで、夢ちゃん」 「へ?」 さぁ、と促されて千歳くんの右手を左手で握った。 祠の前に体を引かれる。 「そっちの…その岩に右手で触って」 「え…う、うん。」 左手は繋いだまま、右手を岩に伸ばした。 千歳くんも、対照的に置かれた少し大きめの岩に触れる。 「よし、これでOKたい」 「え…何が?」 「何って、縁結び。」 「…え」 …縁結び!? 驚いて、千歳くんを見上げる。 千歳くんは笑って祠を指差した。 「俺たちは神隠しにあってたらしい」 「えぇ!?」 「此処で誰かと縁結びするまで帰られんらしいばい」 …だからか。 深い意味はないのか、とため息をつくと、千歳くんは小さく笑った。 「まぁ、夢ちゃんで良かったばい」 「…え?」 「縁結び。…これからよろしくな。」 さぁ、帰ろう、と私の手をそのまま引いて、元来た道を帰る。 …まっすぐ歩いていたはずなのに、いつの間にか森を抜け、暑い街に出てきていた。 …これからよろしく? 「あー、夢!やっと見つけ…」 友達が走ってくる。 …けど、私と千歳くんを見て動きが止まった。 「え?何で…手……そう言う関係?」 「そ。お前がこの子を放ってるうちに、な?」 「え、千歳くん…!?」 ギュッと、より強く手を握られて…私は思わず赤くなってしまう。 それが、この、神秘的な神隠しの恋の、はじまり。 - fin - ●トロはさすがに出せないよ← |