究極を求める君へ


「ねぇ、先輩も一緒に行こうよ。」
「どこに?」
「アメリカ」


…このインターナショナルボーイめ!
私がそんなひょいっとアメリカに行けるわけないだろう。


「だって寂しいよ…俺も、先輩も。」
「ち…近いって、越前…」


ベンチに座っていた私に覆い被さるように、顔と顔を接近させる越前。
お前が美形なのはわかった、だからどけ。


「…それとも、先輩は寂しくない?」
「え…いや、それは…」


…畜生インターナショナル…
純・日本人として曖昧な答えばかり出してきた私に、とうとうYES、NOではっきり答えろと言わんばかりの体勢。
…何でこんなときに手塚先輩は部長じゃなく生徒会長してるんだ。


「そ…れは…」
「どっち?」
「さ…みしい…」


かな、と言おうとしたら、いきなり越前は私の手首をしっかり掴んで立ち上がった。
それから、部室の裏の人気の無い場所に連れ込まれた。


「急になん…っ」
「黙って」


一気に顔が近づいてきて…刹那、重なる唇。
しっかり私の頭は固定されていて…離してくれそうにもなかった。


「…何で今日はデレなの…」
「…は?」
「本当に、離したくなくなっちゃう。」


ぎゅっと抱き締められて…何なんだ、越前のやつ。
訳がわからない私は…されるがまま。


「別に、離せなんて言ってないじゃん。」
「…夢先輩?」
「アメリカについてはいかないって言っただけで。」


ぴしゃりとそこは強調しておく。
越前は、少し背の高い私を見上げた。


「でも…」
「どんなに遠くたって、お互いに頑張ってるかなって…想像とかするだけで、寂しさよりも好きって想いが大きくなると思うけど?」


…ものすごく、らしくないこと言ってる。
それは分かってるんだけど。


「距離に負ける気?」
「…絶対負けてやんないッス」


浮気しちゃダメッスよ、とまた口付けると越前は曖昧に笑った。


「その辺は、安心して待ってるといいよ」


だから、君は高みを目指して、行ってらっしゃい。










「木川」
「何ですか?」


越前が急にアメリカに発っても、私の生活は特に変わらなかった。
ただ、毎日テニスをするだけ。

今日は男女混合での練習で、私は偶然近くにいた不二先輩と組んでいた。


「何か、気合い入ってるね」
「そりゃあ…アイツが帰ってきたら強くなってるじゃないですか。負けたくないですから」
「…相変わらずと言うか、何と言うか…」


苦笑する不二先輩。
私も笑い返しながら、そうですね、と返事をした。


「私は越前のテニスしてる姿が好きなんです。…その姿を何より身近に見れるのは相手してるときだけじゃないですか」
「なるほどね」
「ついで、に、負けたくないです」
「不二!木川!私語は慎め!」
「「ごめん」なさーい」


手塚先輩に注意され、私たちは謝ったあとに笑いあった。

まだ中学生なわけだし、地理も得意じゃないし…行ったこともないから、アメリカがどんなに遠い場所かなんて知らない。
ただ、私にとって行くのはかなり大変なことくらい。

それでも…

このコートに。
まぶたの裏に。
お寺の鐘の音に。
君の面影を感じることはいくらでもできるから。

私は、私らしく君の帰りを待つことにするよ。





(しかし…アメリカでキスは挨拶、とか言うのはやめて貰いたい)
(僕たちもそうしようか?)
(セクハラで訴えますよ?)

(不二!木川!グランド10周!)

((はーい))




- fin -






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