記念写眞


「いらっしゃい、夢さん」
「あっれ、裕太くん、お帰り〜」


…なんとなく、兄貴が一番最初に迎えることは分かってた。


「なんで萩先輩がいるんですか!」
「裕太、萩に失礼だろう?遊びに来ていただけだよ。」


ねぇ、と笑い合う(俺にとっては)魔王2人。
…と、後ろで夢がどうしていいか分からない、と言う体で少し落ち着かないのに気付く。


「あ、こっちは兄貴の周助な…って、分かるか。」
「う、うん」
「こんにちは。」
「で、こっちは氷帝のテニス部の滝萩ノ介さんだ。」
「え…男の人?」
「うん、よろしくねー?」


萩先輩はふんわり笑う。
…営業スマイルだ、絶対。


「しかし…裕太くんに彼女を家に連れてくる日が来るとは…」
「本当にねぇ」
「何で萩先輩にそんなこと言われなきゃならないんだよ!」
「え、兄弟みたいな仲じゃない。」


いや、確かに小さいころからの知り合いではあるけれど。
…兄弟と言うか、俺にとっては確かに「兄貴2人分」だった。
……いじめられる意味で。


「ちょうど良かった。今アルバムを作ろうと思って小さいころの写真を整理してたんだ。」
「そだね。よかったら夢ちゃんも見ない?裕太くんの小さいころの写真」


ぴらっと、俺がケーキの前で号泣する写真を見せながらそう誘う萩先輩。
…そう言うチョイスする辺り!!


「そんなn「見たいです!」
「そう?じゃあおいでー」
「ほら、裕太も。」


…女子って何か好きだよな、写真とか見るの。
もう兄貴と萩先輩の輪に加わってしまった夢を見てため息を吐いた。

それからさすがに観念して、俺もその輪…から少し離れたソファに座る。


「…裕太くん、泣いてばかりですね」
「ふふ、そうだね…あ、これ確かシュークリームロシアンルーレットやったときだっけ」
「あー、裕太くんと周に当たったのに周全然平気だったよねー」


…それは中身が辛子だからだろ。
幼いころから辛いものが好きだった兄貴と、苦手だった俺。
当たってしまって俺がギャーギャー泣いているにも関わらず、兄貴は平然と飲み込んだ。
…今でも泣けそうだ。

他にもいろいろ懐かしい写真がたくさん出てきた。
…が、8割くらいは俺は泣いていた。


「…あ、この写真、裕太くん泣いてないですね」
「あぁ、これは…」
「確か、みんなで動物園行ったときだね」
「まぁ動物は好きだからな」


確かに覚えてる。このときは、本当に楽しかった。
自分よりもずっと大きいゾウやキリンを見て…むしろ兄貴たちの方が珍しく驚いていた。
俺は図鑑の世界が本物になったものだから興味津々で。


「…3人には、たくさん思い出があるんですね」


羨ましいです、と少し寂しげに笑う夢。
…たしか、夢には兄弟はいなくて…、小学校もよく転校していたらしいから、小さいころからの友達もいないんだろう。


「…別に、これから思い出作ればいいだろ」
「え?」


ふと出てしまった声に、ハッとする。
そんな俺を見て、兄貴はため息をつき、萩先輩は微笑んだ。


「じゃあ、4人で写真撮ろうよ」
「あぁ…それいいね」
「え…あ…」
「ほら、裕太くんも!」
「わ、引っ張らないでください、萩先輩!」


俺と夢がソファの中心に座り、兄貴と萩先輩が俺たちの両脇に並んだ。


「撮るよ」
「笑って!」


兄貴の合図でシャッターが切られる。
その直前に盗み見た夢が嬉しそうだったから、よしとしよう。








「じゃあ、焼き増ししたら裕太に送るね」
「あぁ」


…結局、俺は何をしに実家まで帰ってきたのか。
まぁ、夢の見てみたいって言う希望が叶ったからいいか。

寮まで帰る電車の中、ふと夢が呟く。


「写真、楽しみだね」
「…そうだな」



…俺も、きっと今までで一番好きな写真になると思う。

普段は帰ったことを後悔する電車内で、俺は珍しく帰ってよかったかも知れない、と少しだけ感じた。




(それは、きみと一緒だったから。)





- fin -



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