最強ナイト


「ねぇきみ、俺達と一緒に遊ばない?」


…本気で困っちゃった…。
普段あんまり1人で出歩かない私は、今日は珍しく新しい服でも買おうと思って1人で駅前のブティックに寄っていた。
夢中になりすぎて少し遅くなってしまった帰り…生まれて初めてのナンパ。
それも、男の人2人なんて…。


「ねぇ、聞いてる?」
「や、触らないで!」
「わ、かわいー声!」


路地裏に追い詰められて…泣きそうになる。
本当に気持ち悪い。
周りの人は見て見ぬふり。
後ろに下がって、尻もちをついてしまう。
…誰か助けて!


「おいおいてめーら、女1人相手に何してんだよ」
「んだテメー…ぐっ」
「俺さ、イライラしてんの。消えてくんない?」


…そう思った時、目の前の男の人の腕が後ろで変な方向に曲がった。
もう1人はそれを見て一目散に逃げてしまった。

男の人の腕が解放されると、呆れたようにため息を吐く、私を助けてくれた人。
逆光で、顔があまり見えない。

…女の人?


「…ったく、何してんだよ、木川」
「え…木更津くん?」
「それ以外の何に見えるんだっつーの。」


ほれ、と手を差し伸べられる。
その手を取ると、鼓動がだんだんゆっくりになってきた。


「大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
「ごめんなー、サエじゃなくて。」
「…もー!!木更津くん!」


サエ…佐伯くんは、実は私の彼氏だったりする。
佐伯くんと同じ部活の木更津くんは…きっと私の気を楽にするためにそんな冗談を言ってくれたんだろうな。


「っていうか!こんな時間に女が1人で出歩くなっつの!」
「…ごめんなさい。」
「今日は俺が送ってくから。」
「ありがとう」


明日は…佐伯くんを待つか、早く帰るようにしよう!
そう思って、私は木更津くんに頷いた。




…ん、だけどなぁ…。




「…まさか委員会が長引くなんて…」


文化祭の企画がこんなに決まらないなんて。まったく以て予想外の展開だ。
佐伯くんたちは部室に居ないし。
海岸まで行くよりは…家に帰った方が近い。


「…帰ろう。」


…ごめんね、木更津くん。
今日はナンパ何かに合いませんように…。






- Side K.Ryo -



「お疲れー、木更津ー」
「おうお疲れー…って、珍しいな、お前がこんな時間までいるの。」


校舎の中。
教室に忘れ物をして取りに戻ってみれば、そこには帰宅部のクラスメイト。
そいつは大げさにため息をついて見せた。


「いや、この時間まで委員会でさー」
「委員会?お前何委員だっけ。」
「文化祭実行。」


あー、そういやぁ来月だっけ、文化祭。
もうそんな時期かー、大変だなー、と人ごとの用に笑いながら机に向かう。
…と、そいつが持っていた資料を凝視してしまう。


「…副委員長…木川?」
「あぁ、C組の。」


…あいつ!?


「もしかして、1人で帰ったか?」
「え、あぁ、多分。」


その声を聞いて、俺はズボンのポケットから携帯を取り出す。
確かサエもとっくに帰路についてるはず…


『亮?』
「サエ!?木川が…!」







- Side you -



「ねぇ、昨日の子だよね♪」
「わ、マジで?ラッキー!今日はアイツいないみたいだね」


…また、ナンパに合ってしまいました…
しかも良く顔は分からないけれど、昨日とおんなじ人みたい。

そして彼らの言うとおり、今日は木更津くんは近くにはいないはず。
…私はまたじりじりと追い詰められてしまった。


「やめて…」
「なんで?少し遊ぶだけだって♪」


昨日の木更津くんとはまるで違う手を差し伸べられる。
怖くて思わずギュッと目を閉じると、「ねぇ」と低めの声が聞こえてくる。


「人の彼女にナンパなんて、いい度胸だね」
「…チッ、また王子様の登場かよ!」
「さ…」


佐伯くん、と言いかけて声が出ないことに気付く。
…こんなに怖いんだ…。


「うーん、俺は亮みたいに腕っ節が良いわけじゃないからなぁ。」
「あ?何言ってんだよ!」


そう言いながら、佐伯くんに殴りかかる男の人。もう1人も便乗するように殴りかかった。
私が思わず目を瞑ると、「ぐわぁっ」と2人分、男の人の叫び声が聞こえた。

その声に、目を開けてみる。


「…とか言いながら、殴ってんじゃねーか」
「いや、地面に頭押し付けてる亮には言われたくないなぁ。」


パンパン、と手から埃を落とすようなしぐさを見せる佐伯くんの横に伸してしまった男の人が1人。
いつの間にか現れた、しゃがんだ木更津くんの掌の下に男の人が1人。

…それぞれ、倒れていた。


「…うわ、こいつらスタンガン持ってやがる」
「間違いなく亮対策でしょ。」
「彼女守ってやったのになんだよその言い様!」


叫ぶ木更津くんをよそに、佐伯くんがこちらに歩み寄ってきた。
それから私の手を引いて、ギュッと抱きしめる。


「ごめんね、怖かったね。」
「佐伯くん…っ」


木更津くんが立ち上がり、腰に手を当ててため息をつく。

それから、呼んであったらしい警察の人に男の人たちを任せ、私は佐伯くんと2人で帰路についた。
木更津くんは…双子の弟さんを迎えに駅に向かうらしく、その場で別れた。


「…ごめんね、木川」
「ううん、私こそ2人に迷惑かけちゃって…」
「亮は委員会やってないし。…帰りが遅くなるときは俺か亮、どっちかには言うんだよ?これからは俺か亮と一緒に帰って。…他の奴らは駄目。」


なんか嫉妬するから、と笑う佐伯くんに私も笑顔で頷いた。
これからは文化祭の準備とかあるし…佐伯くんも生徒会の仕事があるかも知れないけど。
佐伯くんか木更津くん、どちらかなら一緒に帰れる気がする。


「あ、でも手をつなぐのは駄目だからね?」
「えー?」
「…駄目だからな」
「ふふ、大丈夫だよ」


ちょっと嫉妬する佐伯くんが可愛いなぁ、なんて思いながら私は安全な帰路を歩いた。

つながれた手が、何よりの安心の証拠、だよね。




- fin -



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