紳士風紀委員



「…あっれー?」


普通さ、自販機って缶のジュース120円だよね。
120円ですよね、そうですよね…。


「なぜ130円!!」


残念ながら今の私には5000円札1枚、100円1枚、10円2枚、あとは5円1円しかない。
なぜ5000円札は自販機に入らないんだ、お札がカオスになるからか?

人間は、「喉乾いた」って思ったらすでに脱水症状が出ていることになるらしい。
…嗚呼、喉乾いた。


「…どうかなさいましたか?」
「…っっ!あ、自販機ですか?どうぞどうぞ!」
「いえ、貴方が自動販売機に向かって話し掛けていたので…」


その人の腕についた腕章が目に入る。
「風紀委員」の文字。

不 審 者 で し た か 。


「あっと、すいません!ただ小銭が足りなくて飲み物買えなくて…」
「そう言うことでしたか。」


すると、その人はスッと手を伸ばしてカシャン、と自販機に硬貨を入れた。


「足りないのは10円でよろしかったですか?」
「は…い…」
「よかった。では、私はこれで」


そして風紀委員さんは去っていった。
…何だあの紳士!!

私は紳士が入れてくれた10円と、自分の120円でジュースを買うことに成功した。






「…っていう、赤也とは真逆の紳士が表れたんだよ!」
「紳士ぃ…?」


目の前でトランプタワーを作る、クラスメートの赤也に力説する。

赤也は私の話を聞いているようで、聞いていない。


「ふー」
「わ、てめ!!」
「人の話を聞け!」
「聞いてたっつの!だから紳士が……って、紳士?」


ぶーぶー言いながらトランプを拾う赤也がふと動きを止める。
それから、ジーッと私を見つめた。


「…その紳士ってさ、風紀委員?」
「そう言ったじゃん!やっぱ聞いてなかった!」
「で、眼鏡?ちょい七三?そんでリストバンドしてなかったか?」
「え、うん。…何でわかるの。」
「それ、多分うちの先輩。」


な ん て こ と だ。


「あの紳士と赤也が先輩後輩なんて…!」
「あー、でもどっちだろ…」
「?どっち?」
「いやー、うん、たまにその先輩の物真似する先輩がいてさ…あ、でも風紀委員のときはやらねーか、めんどくさがるしな」
「ね、会わせてよ紳士に!」


ちゃんとお礼言えなかったし!
会いたいし!


「だぁー、分かった分かった。じゃあ今日の放課後!」
「やった!さすが赤也!」


これで紳士に会える!
そう思うと嬉しくて、珍しく寝れなかった数学の授業で先生に怒られなかった。

起きてただけなのに!
問題解けなかったのに許されたよ?あれ?








「さぁ放課後だよー!」
「…へいへい…」


あらん?何か疲れてないかい、赤也くん。
赤也は珍しくため息なんて吐きながら歩き始めた。

赤也にどうしたのー?なんて聞きながら付いていくと、テニス部の部室についた。


「ここで待ってろ」
「え、何で」
「みんな着替えたりしてんだよ!いいか、絶対待ってろよ!」


…あぁーそうか、なるほど。
ところで赤也くん、きみのその反応はまるでエロ本を隠そうとする中学生…って、赤也中学生か。


「…おや、きみは今朝の…」
「…へ?」


何と無く、ただなんとなぁく聞いたことがある声。
その声の方を見ると…


「紳士!!」
「…紳士…?」
「あ、すいません…」


しまった、思わず紳士なんて叫んでしまった。

…っと、あれ?
私を赤也に名前聞いてない!


「あの、その…朝はありがとうございました!赤也に聞いたら多分部活の先輩だって教えて貰って…」
「あぁ、そうでしたか。わざわざお礼に来ていただけるなんて、こちらこそありがとうございます。」


何でこんなときに居ないんだバカヤ!!
あ、ちなみに「バカ赤也」の略ね。

これ以上話を広げる術がなくなった私はえっと、とかその、とかやたらあやふやな言葉しか発せずにいた。
紳士は少し笑って、私の横をすり抜けた。


「また何かあったら頼ってください、夢さん」
「!!」


そう言って、紳士は部室に消えていった。
…え、と…


あれ?


「名前…?」


何で、私の名前知ってるんだ?



紳士が部室に入ると、慌てて赤也が飛び出してきた。
でも、私の耳に赤也の声は入ってこない。

「夢さん」と言う紳士の声だけが頭に響いて。


「赤也、」
「ん?」



恋が始まる音がした。





(ちなみに私の名前を知っていたのは、毎日のように遅刻者リストに載るからでした。)




- fin -




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