僕の生きた意味は君


※死ネタが苦手な人が書いたぬるい死ネタ(?)
 まぁまぁ原作沿い。











病院の屋上。
私は初めて、男の人が泣いているのを見た。

それはそれは綺麗な涙で。
泣いている人に向かって言うのは不謹慎かも知れないけど、とても絵になっていた。

最初に聞いたのは叫び声。
病院には不似合いなその声に、私は屋上へ向かったのだ。


「…大丈夫?」
「……」


返事は無い。
ただ、もう泣いている様子もなかった。


「ねぇ、どうしたの?」


…やっぱり返事は無い。

今まで、病院内では見たことの無い人だった。
だから多分、最近入院した人だ。

私は生まれたころからずっとこの病院で暮らしている。
すぐそこに見える寿命まできっとこのままだろうと思う。


「もしかして、病気の宣告とか受けたの?」
「…放っておいてくれないか。」
「え、それは駄目だよ。私が暇だもん」


やっとしゃべったその声も綺麗なもので。
やっぱり不謹慎だけど、こんなに綺麗な人が同じ病院に入院するのは少し嬉しい。


「私ね、生まれたころからここにいるんだ。」
「…」
「寿命までずっとここにいるんだよ。あと3年くらいかなぁ。…あ、ちなみに今14歳ね」
「…そう」
「お兄さんはいくつ?」
「……中学3年、」
「なら、同い年だね。」


私と話してくれる気になったのか、彼はいくつかの返事をくれた。
私はそう言いながらベンチの隣のスペースに座った。


「…病気の宣告はもうとっくに受けていたさ」
「そうなの?」
「あぁ。…ただ、もうテニスは出来ないと言われてしまってね。」
「テニス?あの、ボール使うやつでしょ?」


本やテレビでしか見たことは無かったけれど、一応知っていた。
その答えに彼は軽く頷く。


「俺にとっては、そのボールとの追いかけっこが生きがいでね。」
「そう…なら、出来ないのはショックだね。」
「…君は、病院にずっといなきゃならなくなったとき、何も思わなかったの?」


彼は私を見もせずに聞いてきた。
…ずっと、かぁ…


「んー…生まれてから病院にいることが普通だったし、別に?」
「…そうか。」
「あ、でも今改めて思うとちょっと考えさせられるね。もしかしたら君に別な形で出会っていたかもしれないし。」


私は、外の世界をこの空しか知らない。
学校がどんな場所なのか、友達ってどんな感じなのか。
可愛い服とか、おしゃれもたくさんしてみたかった。

この病院と言う空間で出来ることは限られているし。


「なんか、ごめん」
「気にしないで。私、言うほど重く受け止めてないからさ。」
「…そう。」
「そう言えば、君はなんの病気なの?」
「ギラン・バレー、らしいよ」


…血液の疾患、だっけ。
血漿交換が必要なんだよね…大変な病気だ。


「そか。…ちゃんと治して、テニスできるといいね。」
「え?」
「お医者さんの言うことなんて、全部が正しいわけじゃないよ。私も一生歩けないって言われてたけど、3歳には歩いてたし。」


ベンチから立ち上がると、看護師さんたちの声が聞こえてきた。
…私を探しに来たらしい。やばい、怒られるな。


「ね、君の名前は?」
「…幸村、精市。」
「そう!私は木川夢!よろしくね」


自己紹介してすぐに私は連行された。
…あと3年くらい、なんて嘘。


私の寿命はすぐそこまで来ていた。


延命措置するかとかいろいろ言われたけど、もうこれ以上苦しいのは嫌だし。
不自由なまま死んで逝くのは嫌だ。

ただひとつ、後悔があるのだとしたら。


精市くんに、もう少しだけ早く会っておきたかったかな。



「…血漿交換、か…」


合併症とかいろいろ不安要素はあるけれど、きっと精市くんなら耐えてくれるよね。
少ししかお話できなかったけど、私が病院で手に入れた「人を見る目」に彼は強く映った。



「先生、あのね…」



死ぬ前に、私が君にできることが一つ。
これこそが、私の生きた甲斐だと思うから。


私に、生きた意味を与えてくれて、ありがとう。




- fin -



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -