片恋



「ん…」


うっすら目を開く。
今まで頭を置いていた方を見ると、宍戸先輩が寝ている。

東北の避暑地にある跡部先輩の別荘での練習。
私の家の都合で合流が遅れる私に宍戸先輩が合わせてくれたんだよね…。

宍戸先輩ってば優しいなぁ、ほんと。

目を開けて、伸びをする。
確か、終点の3つ手前の駅で降りるんだよって滝さんが…



「間も無く終点…」


…はい?


「終点!!?」


私の声に気付いて飛び起きたのは宍戸先輩だけ。
…もう、回りに人はいなかった。





『…で折り返しがあと1時間後ってわけね…』
「すみません…」
『構わないよ。じゃあちょうどいいころに迎えに行くから、今度はちゃんと降りてね』
「はぁい」


じゃあね、と通話が切れた。
宍戸先輩はあくびしながら体を伸ばしている。


「…取り合えず、あと1時間待たなきゃですね」
「1時間かぁー…この辺フラフラしてみっか。」
「…何も無いように見えるのですが…」


セミが五月蝿いくらいに鳴いているその辺りには、コンビニどころか建物すらない。
宍戸先輩はだなぁ、と笑う。


「…お、あそこちょっと丘になってるぜ。行ってみるか!」
「え、ちょ、宍戸先輩!」


辛うじて作動しているような改札を抜けて、宍戸先輩は歩いていく。
私も慌てて追い掛ける。

くそぅ、あの人私が女子だってぜったい忘れてる。


…と、思ったらくるりと振り返り、私に手を差し出した。


「はは、大丈夫か?」
「…あのですねぇ…」
「ほら、行くぜ」


私の手を取って、またズンズン進む宍戸先輩。
…こうなったら自棄だ。死んでもこの手は離さない。

それからしばらく進んで、やっと目的の丘に出た。
私は息絶え絶えに、両膝を地面に落とした。


「おい、見てみろよ」
「なに…を…!」



それは、ただの夕焼け。
草原に夕陽が照って、キラキラ光って。
やたら綺麗に空と草原が重なっていた。


「……ほんと、何もないとこですね」
「何もないからいーんじゃねーか」
「それもそうかも、」


そんなに自然に感動するような性格じゃないのに…これにはさすがに感動してしまった。
風の音と、鳥たちが鳴いている声しか聞こえない。


「…ここ、どこだろうな」
「知りませんよ…」


意地でも離さないつもりでいた手は未だに離せず、お互いに握りあったままで。
ただこの…頼りないような、限りなく頼もしいような先輩と一緒にいれるのがこの上なく幸せなことのような気がして。


「…宍戸先輩、」
「ん?」
「…ほっぺに、私の髪の毛の痕ついてます」
「…マジで!?」


…うん、気のせいかもね。

頬を抑えて夕陽でも分かるくらい赤くなる先輩に笑いながら、私はあたふたする先輩を置いてお先に駅へ戻ることにした。







- fin -




―…ちょうど、萩に降りろと言われていた駅に着くとき俺は目を覚ました。

左頬がやたらあったかくて、そっちを見れば木川がすやすや眠っていて。


起こした方がいいことは、分かっていた。
けど、何か勿体無い気がして。


俺もまだ眠かったんだと思う。
また、瞼を閉じた。



こいつの隣はやけに居心地が良くて…―






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