翼の折れた悪魔



「…ねぇ幸村」
「何だい?」
「あそこで赤也が死んでるんだけど。」
「あぁ、夏風邪をこじらせたらしくてね」


休んでいるんだよ、と魔王様は微笑んだ。
そうか、机に突っ伏して休んでいるのね。


「…見てられないから保健室に連れていってベッドで休ませていいかしら。」
「良いけど、あの体を運べるの?」
「運べるわよ。……ジャッカルが。」
「おい!俺かよ!」



まぁまぁ、とジャッカルに赤也を背負わせ、部室を出る。

よく見れば赤也は本当に苦しそうで…意識も朦朧としているようだ。


赤也をベッドにおろしてジャッカルが去った保健室。
何の少女漫画のベタな展開だかしらないけれど、保険医は不在で。

…あ、ベタでもない。
氷枕を取り出そうと、冷蔵庫に向かうとその上の薬棚に「菓子食いに職員室行ってる」とメモが貼ってある。
…よくもあんな適当な性格の人が立海の保険医やってられるよ。


「さて、氷枕…」


何で北海道土産の恋人さんが冷凍庫に入ってるのかな?
…他にもよくわからないお菓子やアイスをかき分け、やっとの思いで氷枕を見つけた。
薬棚からタオルを取り出して枕に巻き付けて、赤也が寝ているベッドへ向かう。


「赤也?」


一応呼び掛けてみるものの、これと言った反応はない。
取り合えず頭を少しあげて、氷枕を枕に差し込んだ。

頭に触れて、びっくりする。


「凄い熱…」


そりゃ苦しくもなるよ、これは。
…取り合えず、起きるまで付き添ってあげるしかないよね。
柳に私と赤也の荷物をまとめて欲しいことをメールして、ベッドの近くの椅子に座る。
柳からは「赤也を頼む」との返信を賜った。
…何か、柳に荷物いじられるのを許せるのは何でだろうね。
真田なら絶対許さない。幸村には許しちゃいけない。






やることのなかった私は、先生秘蔵だったらしい北海道土産の恋人さんを食べ、ときどき赤也にかけたタオルケットを直して時間を潰した。
氷枕でいくらか熱が収まってきたらしく、いくらか表情が和らいだことに気付いたときには、正直ホッとした。
…普段は元気すぎるくらい元気な子だから。

何回目かにタオルケットを直しているとき、赤也の目が開いた。
私を見て、「夢先輩…?」と小さく呟く。


「起きた?赤也」
「あれ…俺…」
「保健室だよ。夏風邪拗らせたんだってね」


体を起こす赤也を手伝いながら笑いかければ、赤也も照れたように微笑んだ。


「…先輩、いてくれたんスか?」
「いつも元気なアンタがあんまり弱ってるもんだからね。」
「へへ、なら風邪も悪くないッスね。夢先輩独り占めー。」
「…何とかはバカしか……間違った、夏風邪は何とかしかひかないよ」
「バカって言ったッス!」


ぷーっと頬を膨らませて不満を漏らす赤也。
私はそんな赤也のワカメ頭をそっと撫でた。


「まだ苦しい?」
「ん、大丈夫ッス。」
「今参謀が荷物持ってきてくれるから…一緒に帰ろ。」
「…ね、先輩。今日うち親いないから、お粥とか作って」
「はいはい。」
「やった」


苦しくはないらしいけど、弱っているのは事実な悪魔くん。
…しょうがないから今日は君だけの先輩でいてあげようじゃないか。

食べていたお菓子の最後の一口を赤也の口に放りながら、私は笑ってみせた。





(今日だけだよ。……幸村が怖いから。)




- fin -



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