四季の空



「ほな行くで?」
「うん」


あと5分のうちに校門をくぐらなきゃ遅刻。
でもうちから学校までは歩いて10分はかかってしまう。

…何で寝坊なんかしたんだろう。
いつも待っていてくれる謙也はへたれで、起こしになんて来てくれないし。
私は自転車の後ろに乗りながら、遅刻したらどうしようとそればかり考えて焦っていた。


「お前が寝坊なんて珍しいやん」
「…んー、昨日根詰めて勉強しすぎたからかな…。あ、ちゃんと前見て走ってよ」
「了解!」


下り坂を一気に下る。
風を切る感覚が気持ちよくて、目を瞑ってみる。

そろそろ夏も終わりなのか、少しだけ秋のにおいを感じた。


「もう、秋になるんだね」
「せやな。…ほら、田んぼもちょっとずつ黄色くなってきとるで?」


ちらっと視線を移して田んぼの方を見る謙也。
その視線が向いた方を見ると…確かに、少しずつ緑が黄色になってきているようだった。

春が過ぎ、夏が過ぎてもう時期秋が来る。
それが過ぎたら冬が来て、春が来て…


「…次に秋が来た頃には、もうお別れだね。」
「…せやな。」


今私が一生懸命勉強してるのは、何もテストのためではない。
私は、四天宝外部の高校を受験するから勉強が必要で。

だから、春が来ればみんなとはお別れだ。
…みんなって言うのは、謙也はじめ、テニス部の面々のこと。私はマネージャーだから。


「寂しくなるなぁ、夢がいなくなると。」
「…本気で思ってる?」
「嘘ついてどうすんねん。…出来れば止めたいんやで、みんなも、俺も。」
「…謙也…」


最後の角を曲がり、後は学校に一直線。
腕時計を見ると…あと、30秒。

…ギリギリ間に合いそう、かな。


「でも、お前を止めたら困るのはお前やろ?だから言わへんのや。」
「…。」
「ま、俺はへたれやからやけどな」


自重気味に笑う謙也。
…へたれって言う割には、もう言ってる気がするんだけど。
大分周りくどいけどね。


「夢に向かってがんばっとる夢を止める権利は、誰ももっとらんしな。」
「…ありがと、謙也。」


いろいろ話をしているうちに自転車は校門をくぐり、その瞬間にチャイムが鳴り響いた。
…なんとか、間に合った。でも教室に急がなきゃ。


「ほれ、走れ!俺は自転車置いてくる」
「え…でも。」
「今内申下がったら大変やろ?俺は気にせんでえーから。」
「…ありがと!また、お昼ね!」
「おう」


本当は。
ずっとずっと、私もみんなと一緒にいたいけど。
…正直、謙也の「寂しい」って言葉に決意が揺らぎそうになったくらい。

でも、みんながそれを言わないことで応援してくれるのなら。


「頑張らなきゃ、だよね。」


そう小さく呟いて、私は教室へと駆けだした。






- fin -

私も卒業したくないなー←



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