恋病。



「滝さん!」
「夢ちゃん、おはよ」


滝さんの元に駆け寄り、満面の笑みで抱き着く。
…今まで俺と一緒に歩いていた、夢。


「おはようございますっ」
「わかもおはよ」
「…おはようございます」


滝さんがいい人なのは俺にもわかっている。
この氷帝のテニス部で唯一と言っていいほどの。

日常だったその風景に、何だか最近引っ掛かる。
…全部はあの向日先輩の一言からだ。




『日吉って、俺らが木川にべたべたするのは気にするけど、萩だと平気だよな』




それから考えた。
滝さんは性格も良いし、顔も中性的、口調も優しい人だ。

だが、どう解釈しても、男には変わりない。
そんな滝さんに彼女が毎朝抱き着いている。
…それを許す俺は恋人としてどうなのだろう。

胸がモヤモヤする。
何なんだ、この感情は。



「それは嫉妬と言うものだよ、わか」
「…っ!!人の考え読まないでください!」
「わかの考えてることなんて読まなくてもわかるよ〜」


いつの間にか俺の隣に並んでいる滝さん。
滝さんは俺を見て、クスッと笑った。
夢は、途中で会ったらしい女友達と先を歩いている。


「わかがヤキモチ焼くなんてねぇ」
「うるさいですよ滝さん。」
「ふふ」


相変わらず…口でこの人には勝てない。
ただ、この問題は引く訳にはいかない。


「…滝さん」
「なぁに?」
「夢は、俺のですから」


言ってすぐ、顔を背ける。
それから滝さんはプッ、と吹き出して笑い始めた。
その声に夢が振り返る。


「滝さん?どうしたんですか?」
「あははは…!何でもないよ、夢ちゃん…ふふっ」
「?何なんですか!ねぇひよ、どうしたの?」
「何でもない」
「えー?」


言うんじゃなかった…。
大爆笑の滝さんに、ため息をつく。


「分かってるよ、わか。…じゃ、2人とも、また放課後ね」
「あ、はい!」
「滝さんは来なくていいですよ、3年は引退したでしょう」
「ヤだなぁ、そんな寂しいこと言わないでよ」


滝さんは笑いを引き摺りつつ、階段を登っていった。
夢が「3年の教室って下だよねぇ?」と言う通り、あの人に授業を受ける意思はない。
俺をからかうかの様に朝登校し、部活で準レギュラーたちの練習を見て、俺をからかって帰る。


「ねぇ、ほんと何だったの?」
「…お前は気にすることじゃない。ほら、行くぞ。」
「うん!あ、今日もお弁当作ってきたから一緒に食べようね」
「…あぁ」


…こいつの気持ちが俺を見ていればいいか。
嫉妬なんて醜い感情は、夢の笑顔を見て飛んでいってしまった。






(あはは、わか、クサいよ!)
(いい加減にしてください!)
(?ほんと何なのー!?)






- fin -

滝の読心術。←



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