見つけてみせて。 「かくれんぼしようか、岳人。」 「は?何だよ、いきなり。」 いつも通り、岳人はテレビゲーム、私はそれをぼうっと見詰める時間。 今日、夜、東京を発って東北のお母さんの実家に行く、と… 今日この日まで岳人だけには言えずに、来てしまった。 旅行なんかじゃない、引っ越しだ。 だって、打ち明けてしまったら、さよならを言わなきゃいけないでしょ? 私は、それが怖くてしょうがない。 「だって、いっつも岳人だけには見付かってたからさー、悔しくて。」 「そういや、宍戸とか萩は見付けられなかったよな、お前のこと。」 「うん、だから、ここで5分待ってて、隠れるから!」 「は!?ちょ、夢!?」 …やっぱり、言えないよ。 ごめんね、岳人。今までありがとう。 バイバイ。 きっと、5分経ったら私を探してくれる。 まずは家の中。近所の公園、そして、近状中を。 そしたら、この駅に着くのは電車が去ったあとのはずだから。 …ごめんね、岳人。 別れを言うのをツラいと思いながら、きみと何の会話も無しに出ていくのは寂しくて。 勝手で、ごめんね。 「…岳人ぉ…」 涙が、頬を伝う。 きみに会えない日々を思うことが、こんなにツラいなんて。 電車がホームに入る、と言う知らせが駅内に伝わる。 私は持っていた荷物を持ち直し、ホームに向かう。 「どこに隠れるってんだよ、夢」 「…、岳人…?」 ホームに向かう階段に座って、私を見ているのは岳人。 岳人はため息を吐きながら、私の元へ歩いてきた。 「俺に、隠しきれるとでも思ったのか?」 「……」 「俺はな、どんなに上手に隠れたつもりのお前の姿も気持ちも、見付けられんの!」 がしがし私の頭を撫でる岳人。 …そっか、バレてたのか。 「お前の様子が変だから、萩たちに聞いたんだよ。…そしたらお前、俺に黙って居なくなろうとしてたらしいじゃねーか」 「…ごめん。」 「まぁ、良いけどな。…言っただろ、気持ちも見つけられるって」 …バカだなぁ、私。 多分、岳人には、岳人にバイバイを言わないで出てきたことを後悔する私も見えていたんだろう。 荷物を置いて、岳人に抱き付く。 岳人はしっかり抱き締めてくれた。 「…絶対、私、戻ってくる…!」 「…夢…」 「だから…」 言葉を必死に紡ごうとする私の口を、岳人の人差し指が塞いだ。 岳人を見ると、ニヤッとイタズラに笑う。 「もう、いいかい?」 かくれんぼの鬼の、決まり文句。 …そういえば、かくれんぼしてたんだもんね。 私は荷物を持ち直し、岳人の横をすり抜けてホームに向かう。 そして振り返って、背を向けたままの岳人に向かって叫んだ。 「まーだだよ!」 私がここに戻ってきたとき、絶対1番に見付けてね。 - fin - |