一緒に作る時間とお菓子


「…は?」
「だから、お菓子、作ってみろい。」


目の前で、まるで仔犬のようにきらきらとした視線を寄こすのは、幼馴染。
その名も丸井ブン太。
彼はここ、立海大付属中学でテニス部に所属しており、レギュラー部員である彼はテニスもさることながら、お菓子作りが何故か天才的にうまかった。

…幼馴染であると同時に彼氏でもある彼に、お菓子を作ってあげる、と言うのは彼女として当然の務めのようにも思えるが。
ただ、本当にブン太のお菓子作りは天才的で、おいしい。
しかもカロリーの計算をしつくして作っているらしいから驚きだ。


「で、どうしてイキナリ。」
「いや、だってよ、付き合う前まで他の女の子から貰ってたのに、お前には貰ったことなかったなぁと思ってよ。」
「…唐突だねぇ…」
「なぁなぁ、作ってくれよぃ」


口を尖らせて、不満げに私を見る。
…可愛いなぁ、もう。


「じゃあ、ブン太が教えてよ」
「え?」
「ブン太好みのお菓子の作り方、ブン太が教えて?」


作ってあげるから、と私が付け足すと、ブン太は少し間をおいて、勢いよく頷いた。


「教える!教えるから!やったー!!」
「わ、ブン太ったら」


やったー、と言う声と同時に私に抱きつくブン太。
…そんなに喜んでもらえるなら、頑張ってみよう。


「よし、じゃあ簡単にクッキーからな!材料はそろってるはずだし、キッチン行くぞ!」
「はい、丸井先生!」






教えてもらったのは、ブン太いわく「お菓子作りの基本!」だと言う、型抜きクッキー。
普通にバターと、ココアの二種類を作ることになった。


「あ、見て!綺麗に抜けた〜!」
「お、その調子だ!いい感じじゃん、夢!」


星型はなかなか苦戦したけれど、だんだん型から外すときのコツを掴んできて出来るようにはなってきた。
次々作っているうちに、楽しくもなってきて。


「…ん?何の形作ってるんだ?」
「ちょっと待って、今できるからー」


ブン太が他の型を抜いている間に、形を包丁で切り取る。
…型より少し大きめに。
その間にブン太は型抜きを終えて、私の元に歩いてきた。


「じゃーん」
「…うわ!これ、お前形作ったんだよな?」
「そ、ブン太への愛情をこめてハート型に!」
「…あーもー!俺も愛してるぜぃ、夢!」


ぎゅっと、今日二度目のハグ。
私の想いが伝わって、私も嬉しくてそのハグを受け入れた。

その体温を名残惜しみながら、私たちはクッキーをオーブンに入れた。
温度や時間の設定をして、ダイニングの椅子に向かい合わせに座った。


「おいしく焼けるかなぁ」
「当たり前だろい!」
「今日、作り方メモしたから、今度は1人で作ってブン太にプレゼントするからね!」
「…それなんだけどよぅ…」


あー、と声を出して…何故か照れたように顔を少し赤く染めながら、ブン太は床に視線を落とした。
私は「何?」と続きを催促する。


「作ってくれって言っといてなんだけど…やっぱ、1人で作るのは無しで。」
「え?」
「…どーせなら、一緒に作ろうぜ。一緒に作って、一緒に食べたらそれ以上に嬉しいことはねぇよ…」
「…ブン太…」


…作ってあげる、よりも一緒に作る…
確かに、その方が私も嬉しい。


「あ、じゃあ年に一回だけ、私1人で頑張ることにする。」
「へっ!?」
「…バレンタイン。今まで市販のチョコだったんだから、それくらいやらせて?」
「…おう!」


満面の笑みのブン太。
私はそれに満足して、頷いて見せた。

それから焼きあがったクッキーは、さすがブン太レシピなだけあってとってもおいしくて。
私の作ったハート型クッキーも無事にブン太に食べてもらうことができた。

…普通だったら女の子が作って、プレゼントするなり、一緒に食べるなりで…それはそれで幸せなのかもしれないけど。
作る工程から一緒にいれるなんて、もっと幸せに決まってるでしょ!


世間から見たらちょっとずれてるかもしれない、私とブン太の愛の形。





- fin -

そんなまさか。←



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