迷子の心に迷子。


…ワタクシ、氷帝テニス部マネージャーの木川夢デス。
……正式に言えば滝さんの補佐になります。
只今その敬愛する滝さんのお願いで、迷子を捜しております。

デパートとかスーパーなら呼び出して貰えるけれど、ここは街の中。
しかも私はその迷子に会ったことは無い。

手掛かりは滝さんが描いた似顔絵だけ。


「金髪のロン毛…」


そして特徴としては沖縄弁が多才とか。
…会えたとしても言葉が通じるか不安だ。

そんな妙な不安に襲われていると、携帯が微振動。
すかさず携帯の画面を見ると、滝さんからの着信だった。


『もしもし?夢ちゃん?』
「滝さぁぁん…」
『あらあら、夢ちゃんが迷子みたいな声出しちゃって。』


くすくす笑う滝さん。
…笑う所じゃないです。


『そうそう、凛と連絡取れたんだ。そこにとどまるように言っておいたから。』
「本当ですか?!」
『もちろん。えっと、場所はね…』


滝さんに場所を教えて貰って、向かってみる。
…と、確かに金髪でロン毛の人、発見。
滝さんが描いた似顔絵はかなり似ていた。
…すごいなぁ、滝さんは。


「…あの、平古場くん、だよね。」
「あ、お前もしかして木川?」
「うん、迎えに来たよ」


私が声をかけると、苦笑い。


「ごめんな、俺があいつらとはぐれたばっかりに…」
「まぁ、東京ってテンションあがるよね、分かるよ。」


私も出身は東北で、家の都合で小学生のころに氷帝に転入した経歴があった。
だから平古場くんのはぐれてしまう気持ちは分からないでもない。


「あぁ、沖縄とは違っていろんな店があるからな。テンションあがるさー」


無邪気に笑う平古場くん。
…少々荒いテニスをするって滝さんが言ってたけど、本当かなぁ…。
でも全国大会に出るくらいだし、強いんだろうな、とは思う。


「でもまずは、大会頑張らないとね。」
「…そうさね。何か、テンション下がった。」
「何で?テニス嫌いなの?」
「ばっか、そーゆーわけじゃねぇよ。」


ただ、大会と言うその雰囲気があまり好きじゃないらしい。
平古場くんははぁ、とため息をついた。
…そんなに落胆されるとは思わなかったよ。
ジロー先輩なんて、大会って言えばテンションあがるくらいだから。


「…なんか、余計なこと言ってごめん?」
「いや、普通ならここで気合入れなきゃなんだよな…。」


…何かやっぱり不満があるのかな?
私たちは談笑しながら、大会会場近くにある比嘉中の面々が泊まるホテルに来た。
ここかぁー、とそのビジネスホテルを平古場くんが見上げた。


「ありがとなー、これでゆっくり寝れるさー」
「いいえ。…あ、ねぇ、平古場くん」
「ん?」


背を向ける平古場くんを呼びとめる。
平古場くんはゆっくり振り返った。


「あのさ、大会終わったら1日だけ東京にいるんだよね?」
「あぁ、確かそんな予定だったさー」
「…私で良ければ、東京案内でもしようか?普段お兄ちゃんと買い物行くから、きっと平古場くん好みの服屋さんとか紹介できるし。」


それに、と私は悪戯に笑いながら続ける。


「また迷子になったら困るしね」
「…最後の一言が余計だった気がするけど…そりゃいいや。」


平古場くんは私の元に戻ってきて、小指を差しだした。
私はその小指に、自分の小指を絡めた。


「ゆーびきーりげんまん!」
「じゃ、約束ね。」
「おう!」


じゃあな〜、と今度は間違いなくホテルに入って行く平古場くん。
私は手を振って見送った。


「さて、私も帰ろうかな。」


…うん、ここから氷帝ってどうやって行けばいいんだっけな。
…ま、地下中に張り巡らされてる電車を使えばいつか氷帝には着くはずだ。

どんなところに連れていけば、平古場くんは喜んでくれるかな、なんて考えながら私は氷帝への帰り道を歩いた。





- fin -


…ちゃんと着きましたよ。多分←





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