恋するフレーバー


今日の観月はご機嫌だ。
氷なんとかって言うテニス部の部長から、珍しいフレーバーの紅茶を貰ったらしい。

テラスで開催されることになったお茶会。
呼ばれたのは木更津と私だけ。

…赤澤とか柳沢とかは来ると煩いから、招かれなかったらしい。
まぁ…そうなるよね。


「ふあー、すごい香り。」
「えぇ。薔薇も入っているらしいですから。」


綺麗な赤の紅茶が丁寧にカップに注がれる。
お茶受けには、木更津の双子のお兄さんが作ったらしいスコーンが並べられていた。


「しかしすごいね、木更津兄…」
「そ?」
「うん、何この本格的なスコーン」


最初スコーンって名前を聞いたとき、私はチーズ味のスナック菓子かと思ったよ。
そう言えば、2人は呆れたように笑った。


「さぁ、お茶の準備ができましたよ。いただきましょう。」
「うん!いただきます!」
「いただきます。」


3人とも、まずは紅茶から。
鼻に抜ける香りは…うん、高級って感じ。

私も観月のお茶会に付き合う以前は紅茶の味なんて知らなかったけれど、最近は微妙な違いも分かるようになってきた。
これは…今までにない感じ。


「おいしい!」
「えぇ、素晴らしい香りです。」
「ほんと、ここまで違うとは思わなかったよ」


私の一言に、2人も頷いた。
ちょっとした感動に浸りつつ、スコーンにも手を伸ばす。


「んー!スコーンもおいしいっ」
「本当?それは亮が喜びそう。」
「おいしいですね。…本当に亮君は多才ですね。」
「クスクス…間違って勧誘した観月が悪いんだよ。」


…ちょっと、これは女子として見習うべきかもって思うくらい、それはおいしかった。
紅茶とも相性が良すぎる。


「…ってか、観月ってなんで紅茶派なの?コーヒーは嫌い?」


ふと気になってみたので聞いて見る。
観月が紅茶や日本茶を飲むところは見たことがあるけれど、コーヒーを飲んでいるところは見たことがなかったから。
観月はカップをお皿に置いて私の方を見た。


「そうですね…別にコーヒーも嫌いじゃないですが、やはり紅茶が好きです。」
「何で?」
「んー…そうですね、コーヒーより苦みもありませんし…様々なフレーバーがありますから、味に飽きないから、ですかね。」
「ですかねって…曖昧だなぁ」


その私の声に、木更津がクスクスと笑った。
観月は紅茶を一口飲んで、そっと微笑む。


「好きなものに対する理由なんて、曖昧なものです」


また、木更津が笑う。
私は良く分からないまま、ふたつ目のスコーンに手を伸ばした。


「夢さんは、紅茶が嫌いですか?」
「んー…私もコーヒーよりは紅茶かな」
「それは良かった。」


…いや、元はコーヒー派だった。っていうかカフェオレとかが好きだった。
でも観月とこうしてお茶会とかをするようになって、紅茶が好きになった。味の微妙な違いが分かるほどに。

ううん。もしかしたら、紅茶より、観月と(…木更津もだけど)一緒に紅茶を飲む、この「時間」が好きなのかも知れない。

そう思っていると、私はいつの間にか表情を変えていたらしく、木更津が笑いながら「どうしたの?」と問いかけていた。
まさか今まで考えていたことを教えるわけにもいかず、何でもないよ、と言って紅茶をまた一口飲んだ。

口の中に広がる、爽やかなフレーバーを楽しむ。



まさか、この気持ちが恋心だと気付きもせずに。





- fin -



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