1日目







「おー、ついたついた……外観はあんまり青学とかわんねーな。」


山吹中。
私が今回マネージャー交換で当たったのはここだ。

周りには白い制服の生徒たち。
私は青学のセーラー…。
一週間、授業も山吹で受けるんだけど…これは目立ちそうだ。


「あ!いましたです!」
「お?」
「木川夢先輩ですか?」
「え…うん、君は確か……そうそう、壇太一くん!」


渡された資料に書いてあった。
つい最近、マネージャーから選手になったとか。
…越前より…小さいか?


「そうです!もう名前を…?」
「うん、一応資料貰ったしね」
「そうでしたか!では、職員室までご案内しますね」
「ありがとう、助かるよ」


はい、と笑う壇くん。
…いいねぇ、素直な1年生…カツオとかカチローみたいな感じかな。
越前とはまったく違う。
うん。違う。









「今日から1週間、このクラスにお世話になることになりました、木川夢です。」


よろしく、と笑う。第一印象、大事だよね。
すると…何故か女の子がざわついた。…え、何?


「おぉ、モテモテだなぁ、木川さん」
「え?」
「制服さえ見なければ美男子だもんな?」
「あー…よく言われます。」


そうか…そう言うことだったのか。
笑う先生に曖昧に笑い返しながら、私はため息をついた。


「席は…喜多の隣だな」
「喜多……あぁ、ダブルスの。」
「テニス部の隣って指定だからな。後ろだ。」
「ここ、ここ。」


後ろで手を挙げる人。
…写真でみた通りの喜多だ。

私は席まで進む。
途中みんなは凝視だ。…チラ見にしてほしい。


「よろしくね、喜多」
「うん、よろしく」
「おし、授業始めるぞー」


その瞬間、クラスからブーイング。
…私の紹介でHR長引いて休み時間なくなったんだよね…申し訳ない。
担任の先生は数学らしい。私は借り物の教科書を開いた。


(範囲は……同じくらいだな。よっし。)


みんなの宿題だったらしい練習問題を解いてみる。
…うん、これくらいなら楽勝だな。


「じゃあ回答していくぞー…。おいこら、お前ら目を逸らすな。」


まぁ結局どこでもそうなっちまうよな…。
苦笑気味にクラスを見渡すと…先生と目が合ってしまった。


「お、目があったな!木川」
「…マジッすか…。」


私か…。
しょうがないから立ちあがり、黒板にさっきの公式を当てはめていく。
一度やった問題だから支障はない。


「…これで良いですか?」
「……おぉ、正解だ!じゃあこっちの応用もやってみるか?」
「これですか?…えっと…」


お、さっきよりも少し難しい。
でもまぁこれくらいも支障ないな。


「どうですか?」
「おう、正解!」


おぉー、とクラスからも歓声が上がる。
いや…これくらいはいけるさ。


その後の授業も…


「では木川。」
「排他的経済水域です。」
「正解だ。」
「「「おぉー」」」


「ではこの文章を…木川さん!」
「はい…I was playing tennis in the club yesterday. However…」
「Great!先生方が何言っても返ってくるってこういうことだったのね!」
「「「おぉー」」」


…絶対先生たち楽しんでるだろって言うくらい差された。案の定だったな…。

昼休みはクラスの女の子たちとご飯を食べて、喜多に学校の案内をしてもらった。
内装もそこまで青学と異なるものはなくて…広すぎないし、快適に過ごせそうだ。


時間が経つのはあっという間で、放課後。
つまり、ここからが私にとっては「本番」だ。



「じゃあ、部活行こうか木川。」
「おう、案内よろしく。」
「うん。」
「しかし…ジュニア選抜の千石さんかぁー、お手合わせ願いたいけどマネだしなー…」
「え、木川もテニスするんだ?」
「あぁ、私本当は女テニなんだ。うちのテニス部、マネいないから私が代わりすること多くて。」
「ナルホドね。だからテニスバッグか。」
「そうそう。やっぱ持ち歩いてないと落ち着かなくね?」
「それは分かるかも。なんか他のじゃしっくりこないよね」


おぉ…喜多、話が分かる奴じゃねーか…!
良かった…完全アウェーとかだったらやりにくいし…。

しばらくテニスバッグの素晴らしさについて語りながら歩いていると…どうやら部室についたらしい。
…おー、なかなか立派なテニスコート…。
いいなぁ…私もテニスしたい。


「ここ部室ね。」
「おうっ。おじゃましまーす。」
「おぉ!来たねぇ〜!君が夢ちゃん?」
「あ…千石先輩ですよね、よろしくお願いします。」
「うん、よろしく!君みたいな美人さん、大歓迎だよー☆」


び…?
なんかここに来てから、美人とか美男子とか忙しいな…。

それからやってきた先輩たち…南先輩、東方先輩、新渡米先輩に…あぁ、同輩の室町と後輩の壇くん。みんな部室にやってきた。
もちろんレギュラーじゃない子たちも。


「おや、もう来ていましたか」
「伴田先生!木川です、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。…おや、マネージャーなのにテニスを?」


私のテニスバッグを指差し、にこにこと伴田先生が笑う。
そりゃ…いつもと違うものがあれば思うよな。


「はい。うちのテニス部には元々マネージャーがいないので…私は女テニなのですが、たまに代わりをすることがあって。」
「おや、そうでしたか。では腕が鈍ってはいけませんねぇ…」


んんー、と伴田先生は顎に手を当てる。
それから小さく頷いた。


「マネージャーの仕事が終わったら少し打ってみてはいかがですか?」
「え…良いんですか?」
「構いません。うちには洗濯などはありませんし…どうせ暇をもてあますでしょうから。終わったら声をかけてください」
「あ…ありがとうございます!」


何て言う思わぬ展開…!
私は速く終わらせよう、と小さく決心した。

仕事の内容は…殆ど変わらない。
ドリンクとかタオルとか…そんなもんだ。


「お、終わったようですね」
「はい」
「うん、完璧です。さて…あぁ、南くん、木川さんと打ち合ってみませんか?」
「あれ?良いんですか?いきなり…」


レギュラーの方と。
そう思って伴田先生を見ると…相変わらずにこにこ。


「私の目を見くびらないでください」
「え…」
「ふふ、取り合えず南くん、やってみなさい」
「はい。木川、よろしく」
「よろしくお願いします、南先輩」


サーブは南先輩。
伴田先生は私たちを見ている。


「行くぞ」


さすが…強めのサーブ。
普通の女テニなら返せないかもね。


「はっ」


すかさずリターン。
コーナーを狙ったそのショットは、南先輩を横切っていった。


「へぇ…まさかリターンエースを奪われるとは。」
「女子を相手にしてるって思わない方が良いですよ」
「ほう…やはりやりますね。試合形式に切り替えましょう。」






「強いな…お前。」
「ふふ、シングルスですから。」


試合は終了。なんとか勝つことができた。
でも実際は結構苦労して、だけどね。
さすがダブルスの名門…選手の実力は半端ない。


「やるねぇ〜、夢ちゃん!」
「ありがとうございます、千石先輩。」
「この様子だと、青学の奴らとも試合してるな?」
「はい。不二先輩とは今のところ勝敗で言えばドローですね。」


私のその声に…周りのみんなは固まった。
…え、何?何で?


「…それほどの実力だったんですねぇ…」
「いやぁ、びっくりだねぇ…」
「俺、とんでもない奴に負けたのか…?」
「もしかしたら…」
「は?え?…えっと、あれ?」




取り敢えず、1日目は千石先輩と明日対戦することを約束して終わった。






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