1日目





「ついた…」


私は迷子になりながら…やっと不動峰に辿り着いた。
…一応、東京に住んでたんだけど…方向音痴だからなぁ…


「朝6時にホテル出て良かった…」


今の時間は8時。…ギリギリ間に合った…。


「え、ほんとに?6時に出たって…2時間掛かったの?」
「え…」


独り言に、思わぬ返事。
振り返ると…テニスバッグを持った、優しそうな男の子が立っていた。


「あ…独り言に口挟んじゃってごめん。きみ、木川さんだよね?」
「あ、はい!」
「俺、テニス部の森…森辰徳、2年だからため口でいいよ!」
「森…くん、よろしく!」
「うん、よろしく」


森くんはにこやかに返してくれる。
そして、チャイムを聞いて「やば、」と呟いた。


「木川さん…えっと、確か同じクラスだったっけな。案内するからついておいで」
「あ、うん!」


急いでね、と言う森くんについて来たつもりだったんだけど…


「あれ?」


昇降口で見失ってしまった。
どうしよう、と思ってきょろきょろしていると…肩を叩かれる。


「…思ったより重度の迷子だね」
「森くん…!」
「ほら、急がないと遅刻しちゃうよ」


気をつけてて良かった、と笑う森くん。
そして手が差し伸べられる。


「行こう?」
「うん…!」


森くんの手を握って、私たちは注意を受けない程度に走り出した。








「お、来た来た!木川さん!」
「あ、神尾。」
「あ…えと…」


着いたらしい、クラスの前。
そこには片目を髪の毛で隠した男の子が待っていた。


「はは、迷子だったのか」
「うん、良く分かったね。ね、木川さん。」
「う…うん」
「俺、神尾アキラな。」
「神尾くん……?」


『俺の友達もおるで、神尾アキラっちゅう』

財前くんの言葉がフラッシュバックする。
そうだ、神尾くん…


「財前くんの…お友達…」
「そうそう!よろしくな、…えっと、下の名前何てんだっけ?」
「夢、だよ」
「じゃあ夢ちゃん!」


神尾くんはニコッと笑って私の頭を撫でた。
私は笑い返しながら頷いた。











授業全般を終え、神尾くんとおしゃべりしながら部活に向かう。
森くんは委員会の仕事があるらしくて後から来るみたい。

私と神尾くんの話題の中心は、共通の知り合いの財前くんのこと。


「アイツさ、意外と甘党だよな」
「そうなの?」
「おー。好物ぜんざいとか言われたときにはギャグかと思ったけどさ、マジで好きなんだもん。」
「へー…知らなかった…」


本当に仲良しなんだなぁ、と思いながら歩く。
私が知らないことまで知ってる神尾くん。…何かちょっぴりうらやましい。


「俺ら以外にもさ、氷帝の『日吉』ってやつがいるんだ。」
「…日吉…くん?」
「そう、3人で『次期部長同盟』」


おかしいだろ?と笑う神尾くん。
男の子の友情って…いいな。


「ううん!素敵だと思う。」
「そうか?へへっ……あ、ここだぜ、夢ちゃん。」


狭いけど、と部室を指さす。
中から賑やかな声が聞こえてる。


「あ、まだみんな着替えてるかもな…。ちょっと待ってて、俺も済ませてくるから。」
「うん!」


神尾くんが元気にあいさつをしながら部室に入っていく。
その間に私は渡された資料を見てみることにした。

部員は7人しかいないのか…だから全員レギュラーなんだね。
えっと…後輩はいなくて、先輩も1人だけか…。
ペラペラと1人1人の情報を見て時間を潰す。


「あ、木川さん?」
「え……あ、森くん!」


正面から森くんがやってきた。
朝のようにニコニコと笑いながらこちらに歩いてくる。


「ここで何して…って、そうか、中まだ着替え中か。」
「うん。…委員会、お疲れ様」
「ありがとう。へへ、そんなこと言われるの初めてだよ」


照れるな、と人懐っこく笑う森くん。
そんな森くんに笑い返すと、部室の中から誰かが出てきた。


「………………誰?」
「いや、深司おかしいでしょ、それ。」
「でも誰だか……って、もしかして、マネージャー交換の…?」
「そう。」


へぇ…とじーっと見られる。
それから視線を逸らし、深くため息をついた。


「…そんなに拗ねないでよ深司…。そんなんだから司愛ちゃん深司に内緒にしてたんじゃないの?」
「だって心配じゃないか…。」
「え?え?」


私は訳が分からなくて2人の顔を交互に見る。
深司はめんどくさそうにため息をついた。


「あんたがここに来るってことは、うちのマネージャーが別なとこに行くってことでしょ。」
「え…うん」
「それが、うちの場合深司の妹なんだ…深司、シスコンだから。」
「妹思いと言ってほしい。」


…えっと。
多分、今まで見ていた資料によると…伊武深司くん、だよね。

写真で見ても綺麗な子だとは思ったけど…本当に綺麗な顔だなぁ…。


「……何、そんなに見ないでよ」
「あ、ごめんなさい…!」


うわぁ…ちょっと伊武くん怖いかも…。
でも妹さん思いなんだから…きっと良い人なんだよね?

半ば私は言い聞かせるようにして、小さく手を握った。







「みんな、今日から一週間、伊武の代わりにマネージャーをしてくれることになった…」
「えっと、大阪の四天宝寺中2年の木川夢です。よろしくお願いします。」


私はみんなの前でぺこりと頭を下げた。
それから橘さんを見上げると、うん、と頷く。


「俺達も自己紹介をしよう。俺は部長の橘桔平だ。千歳の幼馴染みだ、よろしく頼む。」
「俺も一応…部活では名ばかりの副部長、神尾アキラな、よろしく。」
「……伊武深司。」
「俺、石田鉄。いつも兄さんが世話になってるな。」
「俺は桜井雅也!よろしくな!」
「森辰徳…って、もう知ってるよね。」
「内村京介。一週間、よろしく。」


少ない人数だけど…個性たっぷりだなぁ…。
最初の印象は、そんな感じ。


「よし、練習を開始するぞ!アップは欠かすなよ!」
「「「はい、橘さん!」」」
「木川、お前はドリンクとタオルの準備を頼む。」
「はい、橘さん!」
「よし、良い返事だ!」


みんなそれぞれ散って練習を開始する。
橘さんにアドバイスをもらいながら…一生懸命、楽しそうに。

そりゃあ、四天宝寺のメンバーも楽しそうだけど……。
なんだか…1人1人の笑顔が瞳に焼きつくくらい、みんな楽しそう。


(…この、『暴力事件』って…)


どういうこと、なんだろう…。
深い事情には触れていない資料を見る。

とてもそんなことを起こす人たちには見えない。



考えにふけっていた私はハッとして資料を起き、ドリンクの準備のために部室に向かった。


…その私の様子を見て、私が置いて行った資料の開いたページを見る人がいたなんて、気付かずに…。




「……何、これ……」








← | →




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -