1日目







「氷帝学園中等部……」


やたらヨーロピアンな佇まい。
校門の校名をなぞったあと、ぴん、と指ではじく。


「不動峰じゃないじゃない…!」


精市め…!
あいつ、ただ私に「立海マネージャー」をやらせたかっただけじゃない…!

盛大なため息をついて、校門に1歩足を踏み入れる。

…と、同時に視界が遮られる。


「だーれだ?」
「え……滝くん!?」
「正解!久しぶりだね、夢ちゃん」


目が解放されて、振り返る。
そこには相変わらずの美人さんが立っていた。


「滝くん…そっか、氷帝には滝くんがいた…」
「ふふ、不動峰が良かった?」
「正直ね。でも滝くんがいるなら良いわ」
「本当?嬉しい!」


あぁもう…可愛いなぁ…。
ほぼ同じくらいの視線で笑う滝くんを思わず撫でる。


「あ、ねぇ、一緒に教室行こうよ!」
「え…!もしかして…」
「同じクラス、隣の席!」
「本当?良かったぁ…」


行こうか、と背中を片手で軽く押される。
…エスコートするみたいに。

滝くんも男の子だしなぁ…


(…でもやっぱり可愛いなぁ…)











「神奈川立海の木川夢。好きなものは可愛いものと和食、嫌いなものは着ぐるみです、よろしく」
「…もういいのか?」
「はい」
「…じゃあ、1限目まで休み時間な。」


先生はため息をついて教室を後にした。
私は首を傾げながら滝くんの隣に座った。


「ふふ、シンプルだね」
「うん。…言っても一週間だし。」
「そっか」


1限目の数学の教科書をパラパラ捲る。
…ふむ、こんなもんか…

そう思いながら見詰めていると、クラスの女の子が騒ぎ始めた。


「あ、景吾」
「…んあ、跡部くんか」
「萩之介…よぉ、木川、久しぶりだな」
「久しぶり。…え、同じクラス?」
「いや…隣だ。」


クラスの女の子たちは…遠巻きにこちらを見ている。
…モテるんだねぇ、跡部くん。


「どうしたの?珍しいね」
「あぁ、一応、木川がちゃんと来たかの確認にな。」


幸村に忠告を受けてな、と笑いながら私の頭をグリグリ撫でる。
ちゃんと来たわよ、来てやったわよ。


「まぁここに来るまで氷帝だとは思わなかったけど…」
「そうなの?」
「うん。精市に渡された地図なんだけど…」


ポケットに折り畳んで入れていた地図を2人に見せる。
2人は地図を覗き込み…苦笑した。


それは、修正液で学校名が綺麗に消され、赤い丸で行き先だけが示されたものだった。








授業が終わり、テニスコートまで降りてくる。
部室に入る前…コートに散る部員を見てハッと気付く。


「今さらだけどさぁ…」
「うん?」
「まさか…200人分ドリンクの準備しなきゃなわけじゃないよね?」
「あぁ、えっとね…そこにサーバーがあるから、それに作ってもらえれば…」


そこ、と指差されたのは…ドリンクサーバー。
隣にあるのは、タオル用のサーバーらしい。


「へぇ…すごいね…」
「さすがに200人もいればね。」


そう笑いながらサーバーの説明をしてくれる滝くん。
…まぁ素と水を入れればいいらしい。


「レギュラーのはボトルに作った方が良いんだよね?」
「うん。ごめんね、ありがとう。」
「まぁ一応マネージャーとして、だからね…」


しゃーない、と私は立ち上がる。
滝くんも笑いながら立ち上がった。

それから案内されて、部室に入る。部室にはすでに何人か人がいた。


「ここはレギュラー用の部室。隣が準レギュラー用…まぁ、俺は準レギュラーだけどこっちにいるんだ」
「へぇ…」
「更衣室とシャワールームが奥にあるから…ハプニングに合いたくなかったら入らないこと。」
「ラジャー。」


それは危険だ。心しよう。
滝くんは笑いながら部屋の説明をしていく。


「そこがマネージャー用の更衣室。」
「そんなもんまであるんだ。」
「うん」
「…なぁ萩、さっきから普通に案内してるけど、紹介はないのかよ…」
「あ、宍戸、チョタおはよ〜」
「あはは…おはようございます。」


何人か…の、2人が滝くんに話し掛ける。
…まぁ、ここにいるからテニス部でレギュラーなんだろう。


「まぁ、自己紹介はみんな来てからにしようよ」
「…まぁいいけどよ」


着替えてくる、と滝くんは奥に消えていった。
…私も着替えた方がいいのかなぁ、と思い更けていると、滝くんに替わるように人がぞろぞろと更衣室から出てきた。
その先頭だった跡部くんが私に気付く。


「お、木川、来たか」
「うん。私も着替えた方がいいかしら。」
「そうだな…立海の制服じゃ目立つしな……おい樺地、予備のジャージを持ってきてやれ」
「ウス」
「あぁ、ごめんね樺地くん」


樺地くんは軽く頷くと、再び更衣室へ戻っていった。
それと入れ替わるように…今度は、滝くんが出てくる。


「ん?どうしたの、樺地」
「…ウス」
「あぁ、なるほどね。俺のロッカーの上にある段ボールの中だと思うよ。俺じゃ届かないから、よろしく。」


…今ので分かったんだ。
思わず滝くんを見つめながら私は呟いた。









「まぁ改めて言わなくてもわかると思うけど、立海の木川夢。前にも言った通り、3年で幸村精市とは幼馴染み。…強いて追加情報を加えるなら、仁王と丸井のクラスメートよ」
「丸井くん!?」


ガバァッと今まで寝ていたクリクリ頭の金髪くんが起き上がる。
そして私の元へ駆けてきた。


「丸井くんと同じクラス!?」
「う、うん。」
「E〜なぁ!あ、俺芥川慈郎!ジローちゃんって呼んで欲C→!」
「あ…うん、よろしくね、ジローちゃん」
「よろしく夢〜!…っだ!?」
「ったく、何してんだよジロー。」


私に抱き着くジローちゃんのフワフワな頭をペチりと叩く。
ジローちゃんもだけど…この子も…


(ちっちゃい…)
「俺向日岳人!よろしくな、夢!」
「あ……神尾くんの幼馴染み。」
「そうそう!俺のことは好きに呼んでくれ!」


神尾くんも可愛いけど…この子も可愛いなぁ…。
キュンとしちゃう。


「じゃあ…神尾くんみたいに、がっくんでいいかな?」
「おう!」


えへへ、と笑うがっくん。
…可愛いなぁ、本当に…


「…なぁ滝、点描が見えるんやけど、あそこがくっつくとかはないやろな…?」
「さぁー?」


それをきっかけに自己紹介が始まる。
…まぁ、大体は把握していたけれど…


「部長の跡部景吾だ。」
「まぁ部長以外の何だって話だよね…跡部くんの場合」
「会計の滝萩之介、改めてよろしくね」
「うん、クラスでもよろしくね、滝くん。」
「C組の宍戸亮だ、よろしくな!」
「宍戸くんね、よろしく」
「えっと、宍戸さんとダブルス組んでる鳳長太郎です。よろしくお願いします、木川先輩」
「鳳くん…大きいね…」
「忍足侑士や。よろしゅうな、夢ちゃん」
「…その眼鏡、度入ってないのね…よろしく、忍足くん」
「…2年の日吉若。」
「シンプルね、日吉くん。…で、樺地くんね。」
「ウス。」


…なかなかに個性的。
まぁ200人は覚えられないから、レギュラーと滝くんだけで勘弁して欲しい。


そんな感じで。
初日は滝くんにいろいろ教えてもらいながら仕事になれるだけで終わった。







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