1日目







「ここが……」


ここが…立海大付属中…。

なんだか歴史を感じる校舎…古いわけじゃなくて、本当に伝統を感じると言うか…。
氷帝とはまた違う威圧。…っていうか、周りからの視線が痛いなぁ…。


「えっと…まず職員室に行かなきゃか。」


…職員室ってどこだろう…?
転入生なわけじゃないから、ちゃんとした案内とかなくて…。
困ったなぁ…。

校門の前で悩んでいると、後ろからトン、と肩を叩かれた。


「え?」
「なぁ、お前氷帝の木川だろ?」
「え、えと、はい!…あの……?」
「俺、テニス部の3年、丸井ブン太な!シクヨロぃ。」
「あ…ジロちゃん先輩の……」
「お、芥川な!元気か?アイツ。」
「はい!とても…あ、えっと、木川夢です!」


よろしくお願いします、と頭を下げる。
丸井先輩は「おう!」と笑った。


「で、どーしたよ、迷子か?」
「あ…実は職員室の場所が分からなくて…」
「何だ、そーゆーことか!案内してやるよ」
「え…本当ですか?ありがとうございます…!」
「おう、こっちだ。」


立海って…「王者立海」って言うのもあってちょっと怖いイメージもあったんだけど…。
でも、丸井先輩みたいな優しい人もいるんだ…。
私の中で、ちょっと立海のイメージが変わった。






「えっと…氷帝学園の木川夢です。一週間、よろしくお願いします!」


職員室からは担任の先生が案内してくれた。
丸井先輩は「頑張れよ」と私の頭を優しく撫でてくれて…。

何と無く、安心できた。


「みんな、一週間だけだが仲良くしてやれよ。…えっと、お前の席は…」
「はいはーい!ここ、ここ!」
「…あぁ、切原の隣だな。」


そう言えば…
同じクラスに必ずテニス部がいて、隣の席なんだっけ…。
切原くん……って、あの「悪魔」って呼ばれてる…?

…ちょっと怖くなったけれど…でも、なんだか明るい人の様な…。


「木川?」
「あ、はい!すいません。」


私は先生に頭を下げると、切原くんの隣の席に移動した。


「よろしくな、木川!」
「う、うん!よろしく…」


…やっぱり、あんまり怖い人じゃないのかなぁ…?
人懐っこく笑って私にいろいろ聞いた後、切原くんは満足したように机に突っ伏して眠ってしまった。
…先生に見つかったらどうするのかな…?

ここでもやっぱり、立海のイメージが少し崩れた。







「木川、昼飯行こうぜ!」
「行く……って、どこに?」
「ん?屋上。テニス部のレギュラー、みんな一緒に食ってんだ。」
「そうなの?ちょっと待ってて。」


私はあわてて鞄からお弁当を取り出す。
…昨日の夜からホテル住まいだから…簡単にしか作れなかったけれど、一応お弁当は作ってきた。


「お、手作り?」
「う、うん、一応…。ホテルだからほとんどありあわせ何だけど…」
「いいじゃん!俺なんて毎日買い弁だぜー?」


母ちゃんつくってくれねーしよー、とブツブツ文句を言いながら移動する切原くん。
私はそんな切原くんに笑いながらついて行った。

階段を上って…少し重そうな扉を開く。
…と、そこにはすでに人がいた。


「ちぃーッス。」
「お、来たな赤也、木川!」
「お前さんが木川か。あぁ、よう滝にひっついてうろちょろしとるの。」
「失礼ですよ、仁王くん。」


迎えてくれたのは…丸井先輩と…白髪の先輩、それに眼鏡の…ジェントルマン?
奥には色黒の…スキンヘッドの先輩があきれたようにため息をついていた。


「えと…仁王先輩と、柳生先輩、桑原先輩であってますか…?」
「えぇ、合っていますよ。よろしくお願いします。」
「あ、はい、こちらこそ…」

よろしくお願いします、と頭を下げようと思った瞬間、ドアが開く音がする。
思わずそっちを見ると…大きな黒髪の男の人が2人と…その後ろに、優しい微笑みをたたえた人。

…萩先輩みたいな、中世的な美人さん。


「やぁ、君が木川さんだね。」
「え…えと、はい…?」
「俺は立海テニス部部長の幸村精市。…萩から話、聞いてないかな?」
「あ…幸村先輩……」


萩先輩に、お話だけは聞いていた。


『夢ちゃん。幸村だけには気をつけてね。』


…な……


何にだろう…。
取り敢えず…つかみどころのない人だとは認識した。



「お前が氷帝のマネージャーか。俺は副部長の真田弦一郎だ。」
「俺は柳蓮二。よろしく頼む。」
「よ…よろしくお願いします!」
「ふふ…萩から君のことは聞いているんだ。仲良くしてね。」
「は、はい!」


じゃあ食べようか、と幸村先輩がみんなに言えば、みんなはお弁当を開いて普通に食べ始めた。
…みんなで仲良くお弁当食べる……。
ここでもやっぱり、立海の怖いイメージは薄れていった。








1日目から早速始まったマネージャーのお仕事。
…でも、普段立海にはマネージャーがいなくてほとんどみんな自分でこなしてしまって…。
私はドリンクの追加や、洗濯物を干すことくらいしかできなかった。


「う〜…木川ー、ドリンクお代り〜…」
「はい、どうぞ。」
「さんきゅ〜…」


丸井先輩はくたくたになってベンチに帰ってきた。
…やっぱり、練習内容は厳しいんだろうな…。

丸井先輩が休憩を取っている間、2人でいろいろ話していると切原くんもやってきた。


「あれー?俺のタオルどこ行った?」
「え?私は知らないけど…どの辺に置いた?」
「んー…確かこの辺に…」


切原くんのそばに寄って、私も一緒にベンチの下を覗き込む。
…すると、突然黒い影に覆われた。


「赤也!自分の持ち物をきちんと管理出来ないとは!たるんどる!」
「うわ、副部長!」
「………」


わ、…あと、えっと……


「真田……。木川さんが怖がってるじゃないか。」


思わず固まってしまった私の肩に、ぽん、と優しい手が置かれた。
見上げると…幸村先輩。


「や、えっと、その…」
「ごめんね、真田、怒ると見境ないから。」
「す、すまん木川!お前を責めたわけじゃなくてだな…」
「あ、あの…私、慣れてなくてびっくりしちゃっただけで…えと…」


まだ心臓がバクバク言っている。
幸村先輩に手伝ってもらって立ち上がると、幸村先輩は私の肩にジャージをかけてくれた。


「驚いちゃったんだね。ちょっと、待っててね。……真田、ちょっと話が。」
「!!!?」


幸村先輩は私から離れ、真田先輩と部室に入っていってしまった。
私は丸井先輩を見る。
私の視線に気づいた丸井先輩は苦笑いして私を手招きした。


「ちょっと俺の隣に座って。」
「え?」
「いいから早く。」


グイッと引っ張られて丸井先輩の隣に座る。
…すると、「ごめんな、」と謝られて両手で耳をふさがれた。


「え!?」


私が声を上げると、もう一度、ごめん、呟いて部室の方を見て…ため息をついたみたい。
それからしばらくすると…耳が解放された。


「ふぅ…初日がこれだと先が不安だな。」
「え?何が…ですか?」
「気にすんなって。」


丸井先輩が笑ったと同時くらいに、部室から幸村先輩が出てきた。
真田先輩も……出て来たけど…、何か、覇気がない…?


「おう、幸村くん、こいつの耳は俺がしっかりふさいどいた。」
「ありがとう、丸井。」
「え?えぇ?」
「君は気にすることないよ。…なぁ、真田。」
「…!あ、あぁ!断じて気にすることなどない!」


…そこまで言われると気になるけど…。
私は何と無く、幸村先輩の威圧みたいなものを感じて黙ってうなずくしかなかった。



こんな感じで、立海テニス部での1日目は終わった。






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