特別大サービス(財前)



「わーか」
「滝さん」
「はいこれ、このドリンク好きでしょ?あげる。」
「えぇ、ありがとうございます。…よく覚えてましたね。」
「わかのことだからねぇ」


わしゃわしゃと、観客席から日吉の頭を撫でる萩先輩。
日吉も日吉で嫌がりそうなものなのに、別に邪険にすることもなくて。


「財前〜、顔怖いでぇ?」
「んなこと無「あ、はぎちゃーん!」


金ちゃんが耳元で叫ぶものだから、余韻が耳にキーンと…
って、何や親父ギャグみたいになってもーた。
今度は駆け出して行った金ちゃんが、ぎゅうっと萩先輩に抱きついて…

あーあ、おモテになることで。


「財前〜、顔怖いでぇ?」
「べっつに可愛くとかないですよ、謙也サン。」
「萩くんは後輩可愛がるから…後輩ウケするタイプやもんな。」


謙也さんの言うとおり、そういえば青学の越前とか不動峰の神尾とか伊武とか…
氷帝に限らず、いろんなところのテニス部の後輩たちと萩先輩は仲がいい。
…その人当たりがいいとことか、やさしいとことかが萩先輩のいいところ、なんだろうけれど。


「気に食わん。」
「ん、そういう顔してる。」


まぁ…俺の性格も災いしてるのは分かっている。
俺は金ちゃんや神尾みたいに明らかに甘えたりすることも出来なければ、日吉や伊武みたいにそっと側で一緒に微笑むことも出来ない。
萩先輩の側に居たら、可愛がってもらうというよりは…なんちゅーか、頼って欲しいというか、かっこつけたいというか…。


「意地っ張りやな。」
「うっさいへたれ。」


合同合宿とか、合同練習とか、そんなとき俺はいつもこの距離で地団駄を踏んで。
馬鹿みたいだと思う。

でも彼の側にはいつもああして人がいる。
その中に割ってはいる…なんて、俺みたいな意地っ張りには無理な話だ。


いつまでも気にしていてはいい加減女々しいなとひとつため息を吐く。
そして楽しそうな風景を背に、さっさと練習の準備を始めた。


「あ、携帯…」


電源切っとこうと鞄から携帯を取り出す。
…と、同時に見計らったように着信音が鳴り響く。
突然のことに驚いたのと、着信音で注目を集める前にあわてて電話に出る。
……相手も確認せずに。


「はい、もしもし?」
『ひーくん、不機嫌だね。』
「……萩先輩…」


振り返る…と、萩先輩が携帯片手にこちらにヒラヒラと手を振っていた。
いつの間にやら後輩たちは居なくなっている。


「おはよ」
「…はよっす。」
「本当に不機嫌。」
「誰のせいやと思ってんねん。」
「ひーくんも遠慮せずに来ればいいのに。」
「あの輪には混ざれませんよ。」


あー、あ。
分かりやすく拗ねたりして、何してるんだろ、俺。
…でも感情は止まることを知らなくて、一人になった萩先輩につい悪態をついてしまう。


「ごめんね、ひーくん。みんな可愛い後輩だから…」
「…そっすか。」
「でもね、―――――。」
「…っっ!!」



何、馬鹿みたいに、こっ恥ずかしいこと…
はっと気付いて文句を言おうとしたが…すでに萩先輩はそこにいなくて。
氷帝ベンチのほうで、またへらへらしながら俺を見ていた。


「…ったく。」





『ひーくんは、恋人だから後で特別、ね。』



その一言で他なんてどうでもよおなってしまう俺も俺やな、とその笑顔に苦笑を返した。






- fin -


後輩から大人気の滝さん。
後輩を可愛がって甘やかすから居心地が良くてみんな集まってきちゃいます。
それが金ちゃんとか神尾ならまだ納得できていたはずが、あの日吉までもがと思うと少々腑に落ちない財前君。いやぁ、年の差ってつらいよね…←

優さま、リクエストありがとうございました。
身の回り以外にも財滝に需要があってうれしかったです←

優さまのみご自由にお持ち帰りください。



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