立海R陣による、部長カップル観察記録(幸村)



「幸村〜…って、あれ?」
「おう姫さんか。幸村ならまだおらんぜよ。」
「あ…そっか…」


しゅん、と明らかに滝のテンションが下がる。
そんな様子の滝に対応した俺は苦笑した。

東京からわざわざ神奈川に通ってくる滝は、その神奈川の立海大附属中テニス部部長である幸村精市の恋人だ。
…だがその関係は、というと。


「しかし、よく会いに来るのう、滝。」
「え…あー、うん。ほら、元重病患者だし?」


心配じゃん?と作った苦笑を浮かべる。

…そう、2人は。



(バレバレだっちゅーのに、隠しおるからのぅ…)



ほんと、うちの部長は完璧なようでどこか抜けている。
そんな、男らしくも可愛らしい奴で。

隠そうとする反応が面白くて、俺たちは黙ってる。



そんな俺たち視点から、今回は2人を語ってみようかのう。










「お、萩〜!いらっしゃい!」
「ブンちゃん!」


俺が部室に入ると、そこには仁王と話す萩の姿があった。
萩はお菓子作りもうまいし、うまいケーキ屋も知ってるし…幸村くんの恋人だけど、俺にも優しくしてくれる典型的な「いいやつ」だ。

…まぁ、幸村くんと付き合ってるっていうのは隠してんだけど。


「あ、ブンちゃん!この間俺の実家プロデュースで京都風の喫茶店企画してさ、今度お菓子の試食会あるんだけど、よかったら来ない?」
「ええ!?いいのか!?」
「うん!若い子にもウケる和菓子を作っていきたいんだって。」
「行くに決まってんだろい!」


ほら、また。
俺が好きそうな話題を出して、俺を喜ばせてくれる。
よかったぁって笑う萩。…なんで幸村くんは付き合ってること隠してんだろ。
俺なら「俺の恋人なんだぜ!」って、めっちゃアピって自慢すんのに。


ま、2人がそうしたいなら俺は見守るだけだけど、な。







「おや滝くん、またいらしていたのですか。」
「あ、柳生〜!」


お邪魔してます、と人懐こく笑う彼は、幸村君の大切な存在。
東京の氷帝学園と言うテニスの強豪校に通う彼。…しかし、3年生になって準レギュラーに降格してしまったらしい。

そんな彼に、幸村君が何故目をかけるのか…
正直、テニスにしか執着心を見せたことの無かった幸村くんがここまで個人に入れ込むことは意外で。

でも最近、その人となりを見てその気持ちが分かるような気がしている。


「そーだ柳生、この間貸してくれた本、ありがと」


そう言いながら鞄から前に滝くんが来たときに貸した文庫本が帰ってきた。
私はそれを受け取りながら感想を聞く。


「どうでした?」
「うん、面白かった〜。純愛ものだけど、展開が結構意外で…でも非現実的ではないの。」
「そうでしょう。SFも面白いですが、やはり日常的なものには敵いません。」
「うんうん!で、これは俺からのおすすめ」


はい、とまた新たに文庫本が手渡される。
透明なビニール製のブックカバーがつけられ、綺麗な文庫本。


「これは?」
「ん、多分柳生は普段読まないような作家さん。短編集なんだけど、柳生好きだと思うよ。」
「ほう…君のお勧めとは興味深い。早速今日帰宅してから読ませていただきましょう。」
「是非。」


彼は…よく人を観察し、その人の感性までも汲み取ってその相手を喜ばせようとする「本能」がある。
故に、彼の隣は心地がよい。

私たちでもそう感じるほどだ。
彼のその気持ちに幸村君を「想う気持ち」が加わったなら…


その隣は、さぞ心地好いものだろう、と。








「おはよ…って、滝じゃねーか。」
「んぁ。桑原、おはよ。」
「はは、お前また来てたのか。」
「うん。」


俺が部室に入ると、柳生と楽しそうに話す滝の姿があった。
…最近、俺たちよりも早くいることが多いが…どうやって入ってきてるんだか。


「桑原ん家って、ブラジル料理の店だっけ?」
「あぁ。最近親父がやっと復職してな…」
「そっかぁ、よかったね。今度つれてって。」


前に好きなことは?って聞いたら、「食べることとおしゃべり」って答えた滝。
女子か、と笑えば「似たようなもんかもね」と苦笑を浮かべていた。

そんなことよりもさらに滝が少し可愛く映る瞬間がある。
それは、うちの部長である幸村と並んでいるときだ。


楽しそうに、うれしそうに、幸せそうに笑う滝。
その滝をいとおしげに幸村が見つめているものだから、よっぽどそう見えるのかも知れない。


2人を見ているといいよなぁと思う。
…特に俺がどちらかを想っている訳ではなく(やめてくれ、殺される)、単純にうらやましいと思う。
ま、2人はそれを隠しているつもりなんだろうが。



「んー、そろそろ幸村来ないかなぁ。」
「はは、待ち人来たらず、か?」
「んん〜…」
「もう時機だろ、待っててやれよ。」
「…うん。」


健気にひたすら幸村を待つ姿。
…幸村にも見せてやりたいが、それはちょっと難しいな。









「どわあああ遅刻……って、あれ、部長たちは?」
「あら赤也…幸村たちはまだ来てないよ。」
「うぉっし、セーフ!」


まさか最後の授業中爆睡してて、あきれたクラスメイトやら担任に放って置かれて遅刻した、とは言えねぇ…。
…って、来る前に着替えちゃわねーと。

ロッカーからジャージを引っ張り出して早速着替え始める。
…と、あれ。


「萩先輩、また来てたんスね…」
「え、あ、うん。今更ツッこまれるとは思わなかったよ。」


だって最近いるのなんか当たり前な気がするし。
普通にスルーしちまうくらいに。
…ま、萩先輩みたいな人にとっては東京と神奈川の距離なんてたいしたこと無いんだろう。時間も金も。

それに多分…何より部長といる時間を大切にしているような、そんな感じだし。


「もういっそのことウチに来ちゃえばいいじゃないですか。」
「うふふ、それはちょっと無理かな?俺には氷帝でやることたくさんあるからね。」
「そっすか。」


ま、確かに準レギュラーと言えどあの王様とかとずっと行動共にしてるし、重要な役割ではあるんだろう。
俺的には今のところうちには居ない、やさしい先輩ってことで大歓迎なんだけど。


「多分、丸井先輩も…仁王先輩も、柳生先輩もジャッカル先輩も…みんな、大歓迎だと思いますよ。」
「そ?」
「特に、幸村部長。」


あの人、明らかに萩先輩のこと大好きだしなぁ…
まぁ、それが周りにはばれてないと思ってるのがおかしいところなんだけど。

そしてそれはこの人もまた然り、だったりする。
大好きってのも、それが周りにばれてないって思ってるのも。


「ゆき、むらが?」


かぁ、と音を立てそうなくらいに一気に顔を赤く染める萩先輩。
俺は靴紐を結びながら小さくため息。


「そんなもん、直接部長に聞かないとわかんないッスけどね。」
「う…」


隠そうとするから、俺もちょっと遠まわしに。
でも意地悪かったかな。

…ま、いいや。
どうせ幸村部長が来れば、ご機嫌は一気に最高点。
俺が繕う必要も、ないはずだから。







「部室に滝が来ているらしい。」
「む、またか…最近よく来るな。」
「あぁ…それなら、早く戻らなくてはね。」


柳が携帯を見ながら滝が来たことを知らせてくれた。
今日は来れないと言っていたのに…まったく、本当に気紛れな子だ。

俺と滝は付き合っている。
だが滝が恥ずかしがるために、部員たちには内緒にしている。

…が、気付いてないのは真田くらいなもんだろう。
そのことに気付いてない滝が可愛くてだまっているけれど。


「まったく…そうならそうと言ってくれればいいのに。」
「…精市、そうなればお前部活動役員会議サボるだろう。滝はそれを見越したんじゃないか?」
「ふふ、真面目人間だからなぁ…」


ため息を吐く参謀。
ごめんね柳、恋は盲目って、あれ本当だね。

滝が愛しくて、滝以外は見えないんだよ。


「重症だな、精市。」
「む、幸村、また病気をしたのか?」
「はは、大丈夫だよ真田、普通よりもテニス強くなっちゃう病気だから。」
「何!?そんな病気が…」
「精市、弦一郎で遊ぶな。」


あの角を曲がったら、俺たちの部室。
本当は駆け出して一刻も早く君を見たいけど。

ゆっくりゆっくり、ドアに近づく。


「待ってた」って、とびっきりの笑顔が見たいから。







- fin -


いろんな人視点の短編をツラツラ並べたような感じになりました。
R陣を、とリクいただいていずれやってみたかったこの形式にしてみました。

柳生視点とかジャッカル視点とか悩む節が多すぎて大変でした。
ジャッカルはもはや保護者です。

最後の三強は…
別に真田視点とか柳視点がめんどくさかったわけじゃないですよ、仕様ですよ。
ちょっぴりやり取りが可愛らしいような三強を描写したかった。
無理だった。真田め。←


そんな感じでよろしければ優さまのみご自由にお持ち帰りください!



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