終わり良ければ、まあいっか。(+近林)


※視点が滝→近林→跡部→近林となります。ややこしくてすいません。









「あの、私、跡部様のことが…っ」


…もう少し、場所考えて欲しかったなぁ…。
生徒会室のドアの前。中から聞こえてきた声に俺は手を止めた。
声に気付くのがもう少し遅かったら開けてたよ。危ない危ない。


「ん?滝、どうし…もごっ」


一緒に歩いていたちかの口を押さえつけ、隣の準備室に転がり込む。
準備室にも生徒会室に通じるドアがあり、そこからもまた声が聞こえてきて…ちかは全てを把握したらしい。


「いやぁ、部長モテモテだねぇ。」
「…そうだね。」


女の子たちは、良い。
何にも気にせず、想いを口に出すことが出来る。
それが許される。

想う気持ちは同じなのに。ただ、性別が、違うだけ。


「滝は、いいの?」
「いいの。」
「ぜんぜん、いいって顔してないんだけど。」
「暗いから、見えないだけだよ。」
「そ?」


ため息を吐きながら微笑むちかに、景吾に持って行こうとした資料を突きつける。
そもそも俺は用事があって来たけれど…ちかは付いてきただけだし。
時間はあるだろう。


「滝?」
「それ、景吾に渡しておいて。俺別な仕事あるから。」
「…へーい。」


準備室を後にしようとすると、ほぼ同時くらいに生徒会室から女の子が泣きながら出て行った。
ドアが閉まる隙間から生徒会室の中を覗くと…何事も無かったように、平然と景吾がパソコンに視線を向けて座っていた。

別に、俺が振られたわけじゃない。
言ってもいないし。
でもなんだか居たたまれなくなり、俺も早足で部室に向かった。









「しっつれいしまーす。」
「…近林、お前一人でこんなところに来るなんて珍しいな。」
「んー?そうだねぇ。」


そういえばここにくるのはいっつも滝と一緒だしなぁ。
って言うか、特に俺としては用事ないし。
今回は滝に頼まれちゃったから仕方ない。「はいこれ」と部長に滝に突きつけられた資料を渡す。


「ん?萩に頼んだやつじゃねぇか。」
「それ以外俺が持ってくるわけないっしょ。」
「…まぁ、考え方によっちゃそうだが…萩は必ず訂正箇所をその場で聞いてくるからな。」


必ず自分で持ってくるんだが、と部長は眉間に皺を寄せる。


あー、もう。なんでそこまで気付いてて…。


「…部長って、モテんだね。」
「あーん?いきなり何言ってんだお前…」
「だって、今告られてたでしょ?」
「…盗み聞きか?」
「だって偶然にしてはタイミング良すぎたっしょ?」


告白から俺が入って来るまでの流れ、と笑えば部長は「まぁそうだな」とため息を吐いた。
そして俺が渡した資料に目を通そうとして、ピクリとその動きを止める。


「…近林、まさか萩…」
「うん、一緒に居たよぉ。でも居たたまれなくなっちゃったみたいで、戻っちゃった。」


近くにあったソファにどっかりと腰を落とす。
何でか俺をにらんでくる部長。


「何で止めなかった。」
「何でぇ?俺は滝の気持ちも、部長の気持ちもちゃんと聞いてないし。」
「…分かっちゃ、いるんだろ。」
「んー。」


そりゃあ2人とも分かりやすいし。お互いにうっすら気付いてるはずなのに。
でもそれを2人とも隠そうとしている。
2人とも、声を上げない。


「役者違いでしょ?あの場で滝を止めるのは。」
「近林…」
「ねー、人間ってしゃべれるんだよ?」


現に俺と部長は言葉を交わして意思を伝え合っている。
そうじゃないと、俺たちの意思は交わらないから。


「気持ちが通じる…想い合うのもいいけどさ。人は言葉で『確証』を得るの。」
「…だが…」
「その『確証』が、怖いんでしょ?」


そう、そこで。
そこで部長と滝は馬鹿みたいに悩んでる。
何かと器用に生きてるくせに。2人とも案外真面目なもんだから、世間体とか気にしちゃってさ。

俺が気にしてなさ過ぎかも知れないけどね。
でもそんなところで地団駄踏んでたら、幸せになんてなれない。

それは俺が一番知ってることだ。
親の都合で何度も転校して。やっと掴んだ「友人がいる生活」と言う幸せな日々まで手放そうとした。
それを止めてくれたのは、君たちだろ?

俺の言葉に立ち上がった部長。
俺はその背後に回って、とん、と背中を押した。


「当たって砕けて来ーい、跡部景吾!」
「…砕けたら近林、テメェのせいだからな。」
「あっは。欠片は拾ったげるから。」


パタパタと…滝が走っていった方に、部長も消えていった。
ドアがしまり、俺は一人でため息。

お互いに壁作って、牽制しあってさ。
好き同士なのは向日でも分かるくらいなのに。多分今まで付き合って無かったって言った方が奴はびっくりすると思う。


当たって、砕きなよ。
その意味があるようで、すっごい無意味で無駄な壁。
自分たちで築いてきたんでしょ?壊すのだって、きっと簡単。











近林の口車に乗せられて…と言うのは癪だが。
近林の言葉で思い直した俺はおそらく部室へ向かったであろう萩之介を追いかけた。

確かに、俺はいろいろ気にしすぎていた。
そしていつの間にか萩之介を見ることさえ、心苦しくなっていて。
そんな想い、抱えているだけ確かに無駄だ。


俺だって、馬鹿じゃない。
萩之介の想うこと、何と無く予想はついている。
…同時に、俺と同様に世間体を気にしていることだって、気付いてる。
それを理由に、俺は。



「萩之介!」
「…、景吾?」


部室へ向かう曲がり角。そこでやっと萩之介に追いついた。
平然を装った顔。
だが、うっすらと涙の跡がここからでも見て取れた。

何故俺はここまで放っておいたのだろう。
いつも目の前に、互いの幸せは転がっていたというのに。
それをいつまでも放って置いたから…こんな涙に変わってしまって。


立ち尽くす萩之介に近付く。
そしてその細い腕を引いて、強く抱きしめた。


ほら、届いた。
簡単じゃねーか。



「けー…ご…?」


酷く驚いた様子の萩之介。
抵抗されたら悩んだかも知れない。でもその体は俺を拒否することなく、ただ呆然と抱きしめられていた。


「…もし、お前が俺のこの腕から滲む想いを感じて、それと共有できる気持ちを持ち合わせているならば…」
「…っ、」
「このまま、俺を抱き締め返してくれないか?」


俺の口から吐いて出た言葉は、また互いの気持ちを汲むようなそんな言葉で。
でも悪いな近林。フィーリングで俺たちは分かり合うんだよ。

そっと、華奢な指先が俺の背中を這った。


「好きだ、萩之介。」
「…っ、俺も、大好きだよ、景吾…」







「やっとくっついたよ」
「…な、俺まで巻き込むなって。」
「だってぇ、滝いないから寂しくてさぁ。」


生徒会室の窓から部室錬を眺めて俺は笑う。
…電話で呼び出した向日はため息を吐いた。


「しっかし、良かったのかよ。俺、お前も萩のこと好きなのかと…」
「んー?滝のことは好きよ。好きな子には幸せになってもらいたいでしょ?」
「…お前…」
「なーんて、別にあの2人みたいな感情じゃないって。あくまで友情。」


ポケットから缶入りのドロップを取り出して、ひとつを口に入れる。
あー、とひな鳥よろしく口を開いた向日にも、特別にいちご味。


「お、いちご!」
「ん。…さて、部活行こっか、向日。」
「だなー」



いつまでもうじうじ悩んでる滝も可愛いけどさ。
やっぱり幸せそうに笑ってて欲しいわけよ。俺としてはさ。

…俺の滝と一緒にいる時間は減っちゃうかも知れないけど。


「向日、埋め合わせしてくれるよね?」
「いちごくれたから考えとく。」
「…向日、いちご味好きだね。」
「お前がいちご味くれるのは機嫌が良い証拠だからな。」
「向日、俺の何…」



ドロップの味で俺の気持ち汲むって。
どっかの俺様とお姫様みたいじゃん。

え、ここにまさかのフラグ?


「え、友達」
「うん、向日ってそう言う子だよね」
「はぁ?」
「何でもない」


まぁそんなフラグはあり得ないとして。
上機嫌にドロップを口の中で転がす向日の肩にぽん、と手を置いて足を早める。

遅刻したら怒られちゃうよ。

きっともう、照れ屋な彼らはいつも通りを振る舞っているからね。


「しっかし、あからさまに両想いだったのに何で今までくっつかなかったんだろうな」
「…んんー、それを述べてしまうのは癪だけど…」


部長は、優しい。
滝の気持ちをすべて汲んで、あえて声には出さなかった。

思い悩む滝が、部長には見えていたんだろう。
想い過ぎて爆発しそうな手前、俺の言葉できっかけを作った。それだけの話。


「…それって、優しさか?」
「シンプルに考えたらそうなりますよねー。向日ってば子供なんだから☆」
「う」
「あはは。普通の中学生はそうあるべきだって。」
「…じゃあ跡部と滝とちかはなんなんだっつの」


好きなら好きと、ストレートにそう言えば…それが出来なくて、悩んで悩んで。
まぁ、行く末幸せそうならば、俺的にはめでたしめでたしって感じ?

言葉は悪いかも知れない。
でも、終わり良ければすべて良しって、ね。








- fin -



ちかがいい感じに跡滝の保護者になりました。
ちかは特にホモとかに偏見ナチュラルにない子。自分が苦労してる分人に気を使える子です。
おとめ座B型ってそんなもんなんだよ。

本城さま、近林を受け入れていただいてありがとうございます。
この調子でみんなに普通に浸透してくれたらいいのに。
いつか「コミックスに近林がいなくて違和感です」と言われたい←高望み

本城さまのみ煮るなり焼くなり♪





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