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夕張にあった剥製の館を出て半日。
途中で永倉さんと合流し、陽がとっぷりと暮れてしまう前に今夜の宿を探すことになったのだが、幸いにも一軒だけやっている温泉宿を見つけることが出来た。
しかも、私達の他に客はいないそうで、貸切状態だ。

「疲れただろう。ゆっくり休みなさい」

「ありがとうございます」

土方さんに気遣われて申し訳ない気持ちになったが、疲れているのは事実だった。
何しろ、ずっと土方さんの前に座らされて馬に揺られていたのである。
緊張で身体中がガチガチになってしまっていた。
取るものもとりあえず真っ先に温泉に向かったのは言うまでもない。

「はぁ…いい気持ち…」

天然の岩場を使った露天風呂に浸かっていると、まるで温泉旅行にでも来ているような錯覚を覚える。
もちろんいまは、私がのんびり暮らしていた現代とは違う激動の明治時代で、刺青人皮を探している大変な時なのだけれど、身体の芯まで温めてくれる温泉の湯が、そういった状況を忘れさせて心の底からリラックスさせてくれるのだ。

「なまえか?」

「えっ、土方さん!?」

「どうやらここの湯は繋がっていたらしいな」

なんということだろう。
すぐ近くの岩場の向こう側に土方さんが浸かっていた。
入口は男湯と女湯で分かれていたのに、中は混浴ってありなのか。

それにしても、温泉に浸かる土方さんは壮絶に色っぽい。
髪をまとめ上げているから首筋が露になっているし、隠すものなど何もないと言わんばかりの堂々たる態度で浸かっているものだから、目を逸らすのも逆に失礼になるんじゃないかと思う程だ。

「どうした、こちらにおいで」

穏やかな声に招かれて、恐る恐る近付いていく。

少し離れた場所に腰を落ち着けると、土方さんが含み笑った。

「そう恥じらわれると、男としては何かしてやらねばならない気がしてくるな」

「いえっ、そんな、お構いなくッ」

「ははッ、冗談だ」

楽しげな笑い声をあげる土方さんに、私ばかりが意識しているようで何だか理不尽に感じてしまう。

「お背中流しましょうか?」

「そうだな、頼もうか」

土方さんが岩場に置いていた手拭いを腰に巻いたのを見て、少しだけほっとする。
土方さんが紳士な方で良かった。

桶の中に入れていた石鹸を泡立て、手拭いでこしこしと土方さんの背中を擦る。

「ああ、丁度良い力加減だ」

土方さんの身体は老いは感じられるけれどもそれ以上に逞しく、とにかく雄としての色気が凄まじい。

この身体に組み敷かれているのだと思うと、胸が締め付けられるような感覚に陥る。

「湯に浸かって疲れはとれたか?」

「はい、すっかり」

「それは良かった」

ああ、土方さんは本当にお優しい方だな、と感動していると、手拭いを持っている手をやんわり掴まれた。

「ならば、遠慮はいらんな」

土方さんが振り返る。

微笑んではいるけれど、その眼光は鋭い。
獲物を前にした肉食動物のそれだ。

思わず、ごくりと喉が鳴る。

「湯から上がったら、部屋に来なさい」

「…はい」

逞しい雄に骨の髄まで食い荒らされ、蹂躙される予感に、きゅんとお腹の奥が疼いた。


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