新撰組のファンの方に問いたい。 もしも、あの土方歳三が生き延びていて、ある日現代にタイムスリップしてきたとしたら、あなたはどうするだろうか。 「いらっしゃいませ」 明るい声に迎えられて煌々と灯りがともったコンビニの店内に入ると、少しほっとした。 この辺りには街灯が少なく、いくら自宅まであと少しの距離とはいえ、夜道を歩くのは多少の不安があったのだ。 何でも、若い女性ばかりを狙う通り魔が出たとかで、つい最近、不審者に注意の看板が立てられたばかりだった。 今日は残業ですっかり遅くなってしまったので、途中にあるこのコンビニに逃げ込んだ形だ。 とりあえず、レンジでチン出来るお惣菜を幾つかカゴに入れて、私は他に何を買おうかと店内を見回した。 あっ、癒しクマの中華まんがある。 可愛らしいクマの顔がショーケースの中に一列で並ぶ様子はちょっとシュールだった。 癒しクマは女性を中心に人気があるキャラクターで、よくこのコンビニとコラボ企画をやっている。 どうやらこの癒しクマの顔をかたどった中華まんの中身はチョコレートらしい。 「土方さん、食べるかなあ」 齢70を越えてなお若々しい土方さんがクマの顔をした中華まんを食べる姿を想像して、思わずふふっと笑ってしまった。 よし、買って帰ろう。 「お会計は以上でよろしいですか?」 「あ、癒しクマの中華まんも二つ下さい」 「かしこまりました」 店員さんが中華まんを包んでいる時、ちょうどドアが開いて、すっかり見慣れてしまった姿が目に飛び込んで来た。 「えっ、土方さん?」 「帰りが遅いので迎えに来た。ちょうど店の窓から見えたのでな」 「すみません、わざわざ」 「いや。この辺りに通り魔が出たと聞いたが、まだ捕まっていないのだろう?迎えは当然のことだ」 「嬉しいです。ありがとうございます」 店員さんが差し出したビニール袋を受け取ると、それはすぐに土方さんに奪われてしまった。 「さあ、帰ろう。なまえ」 土方さんの老いてなおしっかりした感触の手に背中を抱かれて、二人してコンビニを出る。 その洗練された立ち居振舞いにぼうっとなってしまう。 ファンの方に是非自慢したい。 あの鬼の副長はとても紳士な人なのだと。 夜、ベッドの上でも。 「ありがとうございました!」 店員さんの元気な声を後ろに聞きながら、私は土方さんと家路についた。 後日、偶然通り魔に遭遇した私を土方さんが護ってくれて峰打ちで倒してしまうことになるのだが、そんなこととはまだ知らない私達は、とても平和に夜空に浮かぶ月を眺めていて、日本の未来について語り合っていたりするのだった。 |