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最近会社の近くにオープンしたばかりのオカユスタンドにハマっている。

ヘルシーだし、朝あまり食欲がなくてもさらっと食べられるのが便利で通っていたのだが、今日もいつものようにお店に入ったら鯉登係長とばったり出くわした。

「苗字」

私を見てちょっと目を見張った鯉登係長は、ほんのり頬を染めて咳払いをした。

「おはよう」

「お、おはようございます」

「何を頼むんだ?」

「えっと、鮭と水菜のお粥を…」

私が答えると、鯉登係長は自分の分と一緒に私のお粥まで頼んでくれた。
そういうことがスマートに出来るあたり、やっぱりモテるんだろうなと思わずにいられない。

「すみません、ありがとうございます」

「礼などいらん。私もちょうど頼むところだったから、ついでだ」

「それでも、やっぱり嬉しいです。ありがとうございます」

「そ、そうか…」

耳まで赤くなった鯉登係長を誘ってカウンター席に並んで座る。

「鯉登係長、お粥お好きなんですか?」

「ああ」

良い所のお坊ちゃんだからさぞかし高級な美味しいものを食べ慣れているだろうに、お粥が好きだなんて何だか意外だ。
職場の女性達が知ったらまた更に好感度がうなぎ登りになるに違いない。
若くして出世コースが約束された鯉登係長は、尾形係長と人気を二分する人気者なのだ。

それにしても、食べ方が綺麗だ。
スプーンで掬う動作一つとって見ても品がある。
やっぱり育ちが良いとこういうところに表れるんだなあ。

「食べないのか?」

「鯉登係長に見惚れていました」

「ンぐっ…!」

気管に入ってしまったのか、背中を丸めて咳き込みはじめた鯉登係長の背中をよしよしと撫でる。

「すみません。私が変な冗談を言ったからですね」

「冗談?…冗談だったのか…」

「本当は猫舌なので、冷まさないと食べられないんです」

尾形係長も実は猫舌らしい。
一緒だなと薄笑いを浮かべて言われてゾッとしたのを覚えている。

それより今は妙にガッカリした様子の鯉登係長のことが気になった。
私はまた何か余計なことを言ってしまったのだろうか。

「…苗字、金曜日は空いているか」

「あ、はい。特に予定はありません」

「では、食事に連れて行ってやる」

光栄に思えと言わんばかりに胸を張る鯉登係長は、女性を誘って断られたことがないんだろうなと思った。

「ありがとうございます」

「そうか、嬉しいか」

急に機嫌がよくなった鯉登係長に安心して、私もお粥を食べ終えた。

「よし、行くぞ」

「えっ、あ、はい」

いつの間にか一緒に出勤することになっているようだ。

他の女性社員の視線が痛いが仕方がない。

堂々とした態度で会社に向かう鯉登係長の半歩後ろについて歩きながら、金曜日は何を着て行こうかなと考えていた。


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