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土曜日。
たまには気分を変えようと、Wi-Fi環境のあるカフェで企画書を作成していたら、背後から声をかけられた。

「菊田次長!」

「ああ、そのままでいい」

思わず席から立ち上がろうとした私を片手を挙げて制した菊田次長は、何故か私の向かい側に腰を降ろした。

「聞いてるぜ。尾形と鯉登を手玉にとって振り回してるんだってな。悪いお嬢ちゃんだぜ」

菊田次長は笑って言った。

この菊田次長、仕事はもちろん出来るし、リーダーシップのあるいわゆるデキル男なのだが、いかんせん女性関係の噂のほうが印象的で、実は苦手なタイプだった。

なんでも、相当立派なものをお持ちだとか、絶倫らしいとか、鳴かせた女は数知れずだとか。
まあ、アレな噂ばかりである。

「そんな…誤解ですッ」

「こんなおぼこい顔して、あの尾形と鯉登をよく落とせたなあ。あいつらを狙ってる女は山ほどいるってえのにな」

「ちょっ、だから違いますってば!」

酷い言われようだ。

「ははッ、怒るな怒るな。可愛い顔が台無しだぜ」

笑いながら子犬にするように頭を撫でられる。
何だか怒る気も失せてしまった。
憎めない人だ。

「ここは俺が奢ってやる」

「えっ、いえ、そんな」

「遠慮するな。いい女は笑顔で流すもんだ」

「その必要はありません。苗字の分は俺が払いますので」

「ヒッ」

「よお、尾形。珍しいな。お前が休みの日に出かけるなんて」

「苗字の行動は予測済みですから」

「ふえぇ…!」

どこからか現れた尾形係長が、当然のように私の肩に手を乗せる。

「おーおー、お熱いねえ。じゃあ、邪魔者は退散するか」

ちょうど店内に入ってきた綺麗な女性に軽く手を挙げて挨拶をした菊田次長は、そのまま彼女の腰に手を回して店の外へと出ていってしまった。

残されたのは、私と…

「さて、俺達もデートに行こうぜ、なまえ」

やっぱりこうなった。


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