大抵の企業と同じく、うちの会社も月末が近づくと忙しくなる。 今日も朝から取引先からの電話応対に追われて、お昼休みになるまでデスクに齧りつきっぱなしだった。 さすがにちょっとめげそうだ。 「お疲れさん」 やっと一息つけたところで、尾形係長がカフェオレを差し入れてくれた。 少し離れた場所にあるカフェテリアの美味しいと評判のカフェオレである。 わざわざ買いに行ってくれたのだろうか。 尾形係長こそ人一倍多忙だったはずなのに。 「ありがとうございます」 「お前、明日から出張な。一泊二日」 「えっ」 聞き間違いだと思いたい。 しかし、尾形係長は容赦がなかった。 「鯉登係長殿直々のご指名だ。明日から同行してサポートしろとさ」 「断れたりは」 「出来るなら俺がやってる」 「ですよね」 つまりこれは、尾形係長が断れないほど『上』からの命令なのだ。 「あのボンボンと一緒だからって浮気するなよ」 「はあ……」 「なるべく二人きりにはなるな」 「はあ……」 「おい、生返事すんな」 「カフェオレ美味しいです」 「現実逃避するなよ」 ああ、いますぐここから逃げ出したい。 |