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力が抜けきってぐったりとしている私を、小さい子供にするように片腕だけで軽々と抱き上げてバスルームから出てきた尾形さんは、リビングのソファに私を降ろしてからキッチンに向かった。

尾形さんはズボンだけ履いて、上半身は裸のまま。
私はバスローブを着せられているが、下着は身につけていない。
言わずもがな、お風呂の中で尾形さんに襲われたからである。

尾形さんが逞しい肉体をさらしたまま冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、その場で封を切ってごくごくと喉を鳴らして飲み干す。
前世と変わらず鍛え抜かれた上半身からは湯気が立ちのぼっていて暑そうにしている。

冷蔵庫からもう一本ペットボトルを出した尾形さんはそれを私に渡してくれた。

「ありがとうございます」

有りがたく頂戴して、よく冷えたそれで渇いた喉を潤す。

「暑いな」

「尾形さんがお風呂の中でするから…」

「嫌だったのか?その割りには、気持ち良さそうにいい声で鳴いていたじゃねぇか」

「尾形さんのスケベ!」

鼻で笑った尾形さんがソファに腰を降ろす。
リモコンを操作してエアコンをつけると、彼は小さく息をついた。

その様子を見ていた私の左手の薬指には、手錠代わりの婚約指輪が嵌められている。
両親への“ご挨拶”の翌日に尾形さんから贈られたものだ。

この指輪を見るたび、逃げ出した詐欺師の鈴川をわざと本人に当たらないように銃撃して、「逃げろ、逃げろ」と言いながらクックックックッと愉しそうに笑っていた姿を思い出す。

彼にとって私は、追い詰められて逃げ場を失った獲物なのだ。

スマホを貸せと言われた時には、さては、男友達全員の連絡先を消されるか、はたまた巷で話題の遠隔操作アプリとやらをインストールされるのかとドキドキしたが、さすがにそこまではされなかった。
もう逃げられないはずだと確信を持っているからだろうか。

ただ、交友関係は徹底的に調べあげられ、好ましくない人物がいないかどうかチェックされた。

それだけでも充分ヤバいと思われるかもしれないが、私はたぶん感覚が麻痺してきているのだろう。
なんだ、意外と束縛はされないんだなと安心してしまった。

尾形さんはお仕事が忙しいらしく、今は一週間に一回、こうして尾形さんの家で逢うことになっている。

初めて尾形さんの家を訪れた時は驚いた。当たり前のように銃が飾られていたからだ。
しかも、それひとつだけではなかった。
部屋を一つコレクションルームにしてあり、そこにびっしり様々な銃が格納されていたのである。

尾形さん曰く、『昔の習慣が抜けなくて』いまはサバイバルゲームでストレスを発散しているのだとか。

なるほどなと思った。
どのような形であっても、やはりこの人は銃からは離れられないのだ。

「何を考えている?」

尾形さんが横から顔を覗き込んでくる。
なんでもありませんと首を振ると、分厚い手で顎をすくい上げられ、まるで猫がマーキングするみたいに頬擦りされた。
お髭がじょりじょりしてちょっと痛い。

「ちょ、尾形さん…!」

逞しい胸板に手をついて押し返そうとするが、びくともしない。

そうしてむなしい抵抗を試みていると、バスローブの中に手が入ってきた。
やわやわと胸を揉みしだかれる。

「やっ…」

「嫌か?本当に?」

…尾形さんは本当にいい性格をしていると思う。

ふ、と笑った尾形さんが唇を重ねてきた。
さっき水分補給したばかりの唇はまだしっとりと濡れている。
そのまま深く口付けられると、少し冷たくなった舌に口内を舐め回された。

「ん……んぅッ」

胸の先端を指でつまんでくりくりと擦られる刺激に、なすすべもなくただ身を震わせる。
お風呂で一度抱かれているせいで、身体が敏感になっているのだ。

「このままがいいか、それともベッドに行くか……お前はどうしたい?」

あくまでも私に自分の意思で決めさせようとする意地悪な尾形さんを涙目で睨み付けるものの、宥めるようなキスでかわされてしまう。
相変わらず、意地悪なんだか優しいんだかわからない人だ。

前世では娼館で悪い遊びをしていただけあって、尾形さんはそっち方面ではいわゆるテクニシャンだと思う。
比較対象がないので、はっきりそうだとは言いきれないけれど。

「…ベッドがいいです」

「いい子だ」

まるでご褒美をやろうとでもいうように優しいキスをされ、私は完全に抵抗する気力を失ってしまった。
はじめから無駄な抵抗だったと言わないでほしい。

私を再び抱き上げた尾形さんは、寝室に向かって歩いていく。

「なまえ…お前、少し体重が増えたか?昔はもう少し軽かった気がするが」

「尾形さんのばかッ」

「そう怒るなよ。冗談だ」

デリカシーがないですよと怒れば、クックッと愉しそうに笑われる。

尾形さんはどう生まれ変わろうが、やっぱり尾形さんのままだった。


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