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茨戸での一件で土方歳三の用心棒になった尾形さんと私は、永倉さんが提供してくれた亡くなった親戚の家に滞在していた。

いま所有している暗号は、牛山さんと家永さんと土方さんの分と、油紙に写した複製が二人分、そして尾形さんが茨戸で手に入れた一枚の、合計六人分。

土方さんによると、網走に収監されているのっぺらぼうと呼ばれる囚人は、恐らく、アイヌに成り済ました極東ロシアのパルチザンではないかということだった。

つまり、のっぺらぼうが極東ロシアの独立戦争に使うためにアイヌの金塊を樺太経由で持ちだそうとして失敗したのが今回の発端というわけである。

その金塊をめぐって、複数の勢力がそれぞれの思惑を持って動いていることはわかった。
尾形さんがどうしたいのかは、相変わらずわからないままだけれど。
でも、自ら売り込んで用心棒になったということは、少なくともいまは土方さん達と行動する意思があるのは間違いないだろう。

「お風呂ありがとうございました」

「いやいや、こんなあばら家で、若いお嬢さんには申し訳ない」

「そんなことありません。こんな立派な御宅を使わせて頂いてとても助かっています。畳の上にお布団を敷いて眠れるだけ有り難いです」

「まあ、この先はそうもいかんだろうからな」

「やっぱりそうですよね」

「おっ、お嬢ちゃん、上がったか!」

廊下で行き合った永倉さんと話していると、部屋の中から牛山さんが顔を出した。
手招きされたので、なんだろうと思いながら歩み寄る。
すると、牛山さんはグッと身を乗り出して言った。
うわ、お酒くさい!

「いいかい、お嬢ちゃん。男を選ぶときは…チンポだ」

「えっ」

よく部屋の中を見れば、テーブルの上にビール瓶がずらりと並んでいる。
どうやら風呂上がりの一杯が度を過ぎてしまったらしい。
この酒瓶の量からして完全に出来上がっているようだ。

「大きさの話じゃないぜ〜?その男のチンポが『紳士』かどうか…抱かせて見極めろって話よ」

「えっと、あの」

「よしッ寝るぞッ!チンポ講座終わりッ」

そう叫ぶと、牛山さんはそのままごろりと横になってしまった。
まさしく呆然、である。

「すみません、お布団ありますか」

「放っておけ。風邪をひくようなタマじゃねえだろ」

胡座をかいて座っていた尾形さんが立ち上がる。
本当にお布団掛けてあげなくて大丈夫かな。

「部屋に戻るぞ」

「あ、はい」

牛山さんのことが気になったが、先に立って歩き出した尾形さんのあとについていき、与えられた部屋に戻ると、二組敷かれた布団が目に入った。

「なあ、なまえ」

尾形さんに腰を抱き寄せられて身体が密着する。
そうして尾形さんは私の耳元に口を寄せると、ねっとりした甘い声で囁いた。

「俺のは『紳士』だろうが」

「し、知りませんッ」

「知らない?本当か?」

吐息が耳から首筋にかけて吹き掛けられる。
やだやだ、首筋はだめなんですってばッ。

「わからねえなら、もう一度しっかり教え込んでやらねえとな」

とん、と肩を押されて布団の上に仰向けに倒された。
上から尾形さんがのしかかってくる。

「尾形さ、」

呼びかける声は尾形さんの口の中に吸い込まれて消えてしまった。
深く口付けられながら身体をまさぐられて、あっという間に火が灯る。
浴衣の胸元をぐいとはだけられると、ぷるんっと胸が中から飛び出した。

「ん、ん、…ッぁ…」

尾形さんが片手で左胸を包み込み、もう片手で浴衣の裾を割り開く。
あらわにされた場所に指が潜り込み、程なくして濡れた音が響き始めた。

「は、ァ…尾形さ、ん…」

「百之助、だ」

「百之助…さん」

瞳がとろりと蕩けて、尾形さんに与えられる快楽に溺れそうになった時、

「よしッ、抱かれてるなッ!しっかり見極めろよ、お嬢ちゃんッ!」

襖をパァンと開けて牛山さんが現れたかと思うと、またすぐに勢いよく襖は閉められてしまった。

ふえぇ…見られた!
どうしよう。明日牛山さんに会うのが怖い。

尾形さんはと言うと、一度うっとうしそうに額に垂れかかる髪をかき上げただけで、特に意に介した様子もなく愛撫を続けている。

「おい、余所見してんじゃねえよ。集中しろ」

「も、尾形さんのばかぁッ」

男の人って…男の人って…!


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