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夕張と言えば、現在でこそメロンの産地として有名だが、古くは炭鉱で栄えた町だった。

その炭鉱の外で尾形さんと別れてからもうどれくらい経っただろう。
先ほど大きな爆発があり、外にいてもかなりの振動が伝わってきた。

炭鉱火災の消火方法は、坑道の密閉である。
板と粘土で坑口を塞ぎ、通気を遮断するのだ。

炭鉱夫達が急いで消火のために動いているのを見て、私も何かしなければと、無事外に逃れて来た人達に木桶で水を運ぶのを手伝っていた。
もちろん、その中に尾形さんがいないか探しながら。
しかし、一向に見つからない。
まさか……まだ炭鉱の中に閉じ込められているのでは?と最悪の状況が頭をよぎる。

「お嬢ちゃん、尾形はどうした?」

「牛山さんッ!」

別行動をとっていた牛山さんを見つけて、私は泣きそうになりながら訴えた。

「トロッコで炭鉱の中に入ったきり、まだ戻って来ないんです!」

「尾形も中にいるのか」

「尾形さん、も?」

「杉元と白石がトロッコに乗っているのを見つけた」

「それって…」

「ここはもういいだろうッ、次の坑口に行くぞぉ」

その時、ちょうど坑口を塞ぎ終わった炭鉱夫の声が聞こえてきた。
もしあの中に尾形さんがいたら…。
私は堪らず塞ぎ終えたばかりの坑口に走り寄った。
中から何か聞こえないかと板に耳をつける。
すると、微かに板を叩いているような音が聞こえてきた。

「牛山さんッ!中に誰かいます!」

牛山さんはすぐに行動を起こした。
すなわち、塞がれた坑口に打ち付けられた板を体当たりでぶち破ったのである。
そして、中から男性を二人抱えて出てきた。

「よぉ、嬢ちゃん。また会ったな」

牛山さんがアイヌの民族衣装に身を包んだ少女に声をかける。

「チンポ先生ェ……」

「ハンペンまだ持ってるうッ!!」

少女が差し出したハンペンを見て、牛山さんに担ぎ上げられていた男の人が叫んだ。

ここにも尾形さんはいなかった。
私は他の出口を探して走り出した。

「尾形さん!尾形さんッ!」

「…ここだ」

「尾形さんッ!」

通風口らしき出口から出て来た尾形さんを見つけて駆け寄り、思い切り抱きつく。

「煤がつくぞ」

「尾形さんのばかぁ…」

「おいおい、馬鹿はねえだろ」

とりあえず顔だけでもと、ハンカチで尾形さんの顔を拭くと、大丈夫だというように腰に回された腕に力がこもった。

「あ、そうだ、牛山さんが」

「牛山?」

尾形さんにくっついて牛山さんがいた所に戻ると、牛山さんが助けた二人の男性とアイヌの女の子、そしてその子の連れの男性がいて何か話していた。

「なんであんたがこんなところに」

「連れと夕張に来ていたが、ふらっと居なくなってな。探していたら、お前らがトロッコに乗ってるのを見つけたんだ」

「連れ?」

ちょうど牛山さんの背後まで来ていた尾形さんがやれやれといった風にひとつ溜め息をつき、髪を掻き上げる。

「しょうがねえ。そいつら連れてついてこい」

「お前はたしか鶴見中尉のとこの…なんで牛山と?」

「えっ、この人達も連れて行くんですか?」

困惑する私を、相手の男性も怪訝そうに見ている。

「こいつは俺の女だ。手え出すなよ」

「はぁ!?」

「お前ら、お嬢ちゃんに礼を言っておけ。お嬢ちゃんがお前らに気付いたから助けられたんだ」

「そ、そうか、ありがとうな」

「いえ、無事に出られて良かったです」

「杉元達の恩人か。私はアシリパだ。こっちが杉元と白石」

「白石由竹です。よろしく、お嬢さん」

「苗字なまえです。よろしくお願いします」

先ほどまでぐったりと座り込んでいた白石さんが、急にキリッとした顔になって立ち上がり、私の手を取ろうとした途端、ジャキンッと音がして、白石さんは慌てて手を引っ込めた。
振り返らなくてもわかる。
尾形さんが銃口を突きつけているのだ。

「俺の女だと言っただろうが」

「尾形さん…」

思わず苦笑してしまう。
飄々としているように見えて、意外と独占欲が強いんですね。尾形さん。
ちょっと可愛いかもしれない。

私達は尾形さんの案内で、あの剥製だらけの家へと向かった。

彼らが新しい旅の仲間になるのだが、この時はまだ知らずにいた。
そのあとに訪れる、出会いと別れのことも。


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