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今朝のことだ。
大学に行く前にいつものように近くのコンビニに寄って、カフェオレと新作のチョコミントのお菓子を買ってお金を渡したところ、

「あの、これを」

と、何やらメモ帳の切れ端らしきものを手に握らされた。

「連絡待ってます」

赤い顔でそう言われて、ああ、これはいわゆる気になる異性に連絡先を渡すという行為なのだなと気がついたのだが、その瞬間、コンビニの店員さんに向かって小銃を構える尾形さんの幻が見え、慌ててメモを突き返してしまった。

「すみません、婚約者がいるので、こういうのは困ります」

咄嗟に口から出た内容はそんな感じの言葉で、ちゃんと断れて良かったと安心したけれど、店員さんの絶望したような表情が忘れられない。
これからどんな顔をしてコンビニに行けば良いのだろう。
いつも利用しているコンビニだから困った。

「堂々としてりゃいい。気まずい思いをするのは向こうの勝手だろ」

尾形さんは微塵も容赦がない。

私の作ったオムライスを完食した尾形さんは、いまはおつまみにと出したホタテの酒蒸しをつまみながら日本酒を味わっている。

私も少しだけご相伴にあずかったが、さすが大吟醸だけあってフルーティで飲みやすい。
だからと言って調子に乗って飲みすぎてしまうと大変なことになるのはわかっているので、あくまでも少しだけだ。

「それにしても、よくちゃんと断れたな」

「尾形さんがいたから…」

嘘は言っていない。
あの時、小銃を構える尾形さんの幻が見えなかったら、これどうしようとメモを握らされたまま困っていたはずだから。
流されやすい性格なのは自覚しているつもりだ。
実際、流されるまま、尾形さんの家で一緒に暮らすことになってしまった。

「可愛いことを言うじゃねえか。なあ、なまえ」

尾形さんは私を膝の上に抱き上げ、唇にキスを落とした。
そうして、ご機嫌な様子で頬擦りしてくる。
それがまるで機嫌がいい時の猫みたいで、笑うのを我慢するのに苦労した。

猫ちゃん猫ちゃん、と心の中で呼んでみる。

途端に可愛らしく見えてくるから不思議だ。

首筋に熱い息を吹き掛けながら吸い付いてくるのは、独占欲を刺激されたからだろうか。
お髭がじょりじょりするので、痛いようなくすぐったいような何とも言えない感触なのだが、これをされると、とにかくじっとしていられなくなる。
しかし、尾形さんの逞しい腕が身じろぎすることを許してくれない。

「尾形さん、待って」

「なんだ」

「まだ課題をやらないと」

「明日提出のやつじゃねえだろ?」

「それは…まあ」

「いいから、大人しく可愛がられてろよ。今日は機嫌がいいからサービスしてやるぜ」

尾形さんのいうところのサービスがどんなものだったかは、だいたい想像がつくと思われる。

翌日、再び例のコンビニに寄ったのだが、あの店員さんは私と目を合わさないようにレジを打っていた。
ちょっとショックだ。

尾形さんが見えるところ手当たり次第にキスマークをつけまくったのが悪い。

絆創膏でも隠しきれなかったため、仕方なくそのまま出掛けたのだが、大学でも友達に散々からかわれてしまった。

帰ってそのことを抗議すると、

「俺の女だと誰の目にもはっきりわかっていいじゃねえか」

と開き直られてしまった。
そうだった。こういう人だった、この山猫スナイパーは。

嫉妬深い猫の取り扱いは大変だということがよくわかった出来事だった。


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