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今日はゼミの仲間とプールに遊びに来ている。
週末には台風が来るらしいから、いまがチャンスとばかりにやって来たのだ。

大学が夏休みに入ったばかりだからか、みんなテンションが高い。
きゃっきゃとはしゃいでいる姿を見て、ちょっとふざけすぎかもしれないと気になったものの、勉強から解放された解放感から気が大きくなっているのだろうと納得することにした。

「なまえちゃん、ノリ悪いよ?もっとテンション上げてこうよ!」

「ああ、うん、ごめんね」

話しかけて来たのは、ゼミの中で一番苦手なタイプの男の子だった。
見るからにチャラい風貌と言動にこちらが引いているにも関わらず、グイグイ来るのでいつも困ってしまう。
密かに心の中でチャラ男くんと名付けて避けまくっていた。

そういえば、出会ったばかりの頃の尾形さんもかなりグイグイ来ていたが、嫌な感じはまるでしなかったな。
怖い人だなとは思ったけれど。
何だか急にあの西洋料理店での日々が懐かしく思えて来た。
まだ金塊に関わることもなく、平和だったなあ。

「なまえが遠い目になってる」

「彼氏のこと思い出してるんでしょ」

「年上の彼氏とか包容力ありそうで羨ましい」

「包容力があるかはわからないけど、毎晩懐に抱き込まれて寝てるよ」

「こいつ、さらっとノロケおった!」

「ぶっかけろ!」

「ごめん!許して!」

容赦なく水をザバザバかけられ、悲鳴をあげて逃げ出す。
しかし、当然そう簡単に逃がしてくれるはずもなく、後ろから追撃された。

しばらくそうして追いかけっこのような遊びを続けた後で、みんな一度水から上がることにしたようだ。

「はあ、疲れた。休憩休憩」

「私もー」

私も上がろうとしたのだが、後ろから腕を掴まれて梯子にかけていた足が滑った。

「ちょ、なッ!?」

「まだいいじゃん。ちょっと付き合ってよ」

チャラ男くんだった。
私の腕を引っ張って、ずんずん進んでいく。
タイミングが悪いことに、さっき滑ったときに足をつってしまったようで上手く歩けない。

「待ってッ、足がつって…!」

「まーた、そんな見えすいた嘘ついてぇ。いいから付き合えって」

がくんと身体が沈んだ拍子に、思いきり水を飲んでしまった。
激しく咳き込むが、チャラ男くんは振り向きもせずに私を引っ張って行く。

ダメだ、溺れる!

沈みかけた身体が誰かに抱き上げられ、一気に浮上した。
チャラ男くんが蹴り飛ばされて吹っ飛んでいくのを呆然と見つめて、やっと自分が誰に助けられたのか理解した。
もうすっかり見慣れてしまった、分厚い筋肉がついた男らしい肉体。

「尾形さぁん…!」

「泣くな。もう大丈夫だ」

小さい子供みたいに片腕で抱き上げられて、背中をぽんぽんと優しく叩かれる。
私は尾形さんの逞しい身体に抱きついてわんわん泣いた。

ようやく異変に気がついた他の女の子達が水に入って来るが、尾形さんはそれを無視してプールサイドに上がっていった。

「尾形さん…どうしてここに?」

「男も一緒にいるってえのにお前から目を離すわけがねえだろ。先にプールに来て遠くからお前を観察してたんだよ。ずっとな」

「ふえぇ…こわいぃッ」

「アホか。俺がいなけりゃ溺れてたんだぜ。感謝しろよ」

「うう…ありがとうございます」

尾形さんが、じっと獲物を見据えながら何時間も待機出来るスナイパーで良かった。

「どうだ?まだ痛むか?」

「もう大丈夫です」

尾形さんにプールサイドに座らされ、つった足をマッサージされていたところに、男の子達が例のチャラ男くんを連れて謝りに来たのだが、尾形さんにしこたま怒られていた。
その辺、元軍人さんなので容赦がない。

「惚れた女の扱いもわからねえガキが。二度と俺の女に手を出すなよ」

尾形さんがそう言ってくれた時は正直スカッとしたし、嬉しかった。
あれ?でも、惚れた女って?
首を傾げていると、尾形さんに溜め息をつかれてしまった。

「そこのチャラい野郎はお前に惚れてたんだ。だから、ちょっかい出されてたんだろうが」

「全然気がつきませんでした」

「なまえらしいよね…」

「あんなわかりやすく絡んでたのに」

どうやら他の子達はみんな気がついていたらしい。
それならそうと教えてくれれば良かったのに。

そんな不満が顔に表れていたのか、尾形さんが面白がっている口調で尋ねてきた。

「教えてもらってたら、お前どうしてた?」

「はっきり断って二度と関わらなかったです」

私の言葉にチャラ男くんは撃沈していたけれど、何か期待していたとしたら大間違いだ。

「好かれるための努力を惜しむなよ。惚れた女は甘やかしてやるくらいでちょうどいい」

尾形さんのありがたいお言葉を、彼らがどう受け取ったかはわからない。

ただ、それ以降同じゼミの男の子が私に必要以上に近づいて来ることはなかった。


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