大学が春休みに入り、大分時間に余裕が出来た。 本来ならバイトでもするところなのだが、以前やっていたバイトは尾形さんに言われて辞めてしまった上に、それ以後バイトは禁止されてしまったため、学生らしく勉強に励むか家事に精を出すしかない。 今日も洗って乾いた洗濯物を畳んでしまった後、家の隅々まで掃除機をかけてから少し時間が空いたので、リビングのソファに腰を降ろしてテレビを見ることにしたのだが。 「えっ」 いきなり見覚えのありすぎる人物の顔が大画面テレビにアップで映し出されたので、驚いてしまった。 「鯉登少尉?」 画面に映っているのは間違いなく、あの鯉登少尉だ。 今はもうアップではなく、少し引いたアングルで男性にインタビューを受けている様子が映し出されている。 何でも、この若さで起業したらしく、若きカリスマ経営者として紹介されていた。 いずれは政界進出も視野に入れているという。 「恋人はいないんですか?」 期待をこめた眼差しで見つめる女子アナの問いかけに、鯉登少尉は「いません」と短く答えた。 「ただ、ずっと想っている女性はいます。既に婚約者がいますが」 スタジオの観客席からざわめきが巻き起こる。 「その方に告白はされないんですか?」 「自分はまだ若輩者なので、成すべきことを成してから迎えに行こうと思っています」 「えっ、でもその方には婚約者がいるんですよね?」 鯉登少尉はカメラのほうを真っ直ぐ向いた。 「聞いているか、尾形!私は貴様のことなど断じて認めん!貴様になまえさんを幸せに出来るものか。必ず貴様からなまえさんを奪ってみせる!覚悟しておけ!!」 そこでいきなりCMに変わった。 どうやら生放送だったようだ。 完全に放送事故レベルである。 あわわ…とテレビの前で狼狽えていると、玄関の鍵が開けられる音が聞こえてきた。 「尾形さん?お帰りなさい。早かったですね」 「やはり観ていたか」 急いで帰宅したらしい尾形さんは、ちらりとテレビに目をやると、スーツ姿のままいきなり私を抱き上げた。 「きゃっ」 「あんな宣戦布告をされて黙ってられるか。お前が誰のものなのか、その身体にしっかり教えてやらねえとな」 「えっ、えっ、今から?」 「なんだよ、嫌なのか」 「まだ日中なのに…」 「すぐに、昼か夜かもわからなくしてやるよ」 「あっ、テレビ!」 つけっぱなしのままのテレビが遠ざかっていく。 その日は、これでもかというくらい尾形さんにねっちょり抱かれ続けた。 嫉妬してくれたんですね、尾形さん。 ちょっと嬉しかったのは秘密です。 |