零さんとトロピカルランドを訪れた私は、あまりの人の多さに驚くと同時に不安になっていた。 自慢ではないが、方向感覚には自信がない。 もし零さんとはぐれてしまったらと思うと不安でならなかった。 さすがにこの年で迷子放送をされるのは恥ずかしすぎる。 「大丈夫だ。絶対に君を見失ったりしないよ」 そう言って、零さんは手を繋いでくれた。 あたたかくて大きな手の感触に頼もしさを感じながら、私は零さんと一緒に入場ゲートをくぐった。 入ってすぐの大きなアーケードの下にはお店が連なっていて、お土産が買えるようになっている。 「冬にはここにツリーが置かれるんですよね」 「ああ。今度はクリスマス時期に来るのもいいかもしれないな」 零さんと手を繋ぎながら歩いて行くと、トロピカルランドのマスコットキャラクターの銅像がある広場に出た。 ここから放射状に道がのびていて、各アトラクションのある場所へと繋がっているのだ。 「まずは何に乗ろうか」 「ミステリーコースターに乗ってみたいです」 「よし、行こう」 私と零さんはミステリーコースターの乗り場に向かった。 人気アトラクションのひとつだけあって、やはり少し並ぶことになったが、その間、零さんと楽しくお喋りして過ごしたので、長い待ち時間も全く苦にならなかった。 「ここ、以前殺人事件が起こったんですよね」 「怖いかい?」 「零さんが一緒だから大丈夫です」 「君は本当に可愛いね」 「な、なんですか急に」 「急にじゃない。いつもそう思ってるよ」 「えっと…そう、前に事件が起こった時は、あの有名な高校生探偵の工藤新一くんが解決したんですよね。凄いなあ」 「俺の前で他の男の話をするなんて、悪い子だ」 「零さんの焼きもち妬きっ」 「俺をこんな風に嫉妬させるなんて君ぐらいのものだよ」 そんなことを話している内に私達の順番が回ってきた。 なんと、運が良いというか何と言うか、一番前のシートだ。 いざ乗り込んで座ることになると、途端に緊張してきた。 「大丈夫、俺がついているから」 安全バーを握る私の手の上から零さんが手を重ねて握ってくれる。 「零さんが隣にいてくれるなら怖くないです」 「途中で故障して止まっても?」 「そ、それは怖いかもしれません」 「ははっ」 零さんが楽しそうにしているのを見るのは嬉しい。 いつもギリギリのところで危険に身をさらしている彼が、こんな風に普通にアトラクションを楽しんでいる様子はとても貴重なことだとわかっているから。 「ほら、なまえ。出発だ」 零さんの言葉と同時にコースターが動き出す。 自分の手に重ねられた零さんの手に縋るような思いで、走り出したコースターの中で必死に悲鳴をあげるのを堪えていた。 真っ暗なトンネルに突入した途端、頬に柔らかい感触が触れたのは、きっと気のせいではない。 |