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「おはよう」

「お…はようございます…」

目が覚めると、零さんの腕の中だった。

至近距離にある綺麗な顔と、素肌に直接感じる引き締まった身体の感触とぬくもりに、パニック状態になりかけたのだが、零さんに優しく髪を梳かれて、更に事態は悪化した。
あわあわと赤くなって彼の腕から逃れようとするが、力をこめて抱きしめられてしまい、身動きすることも適わない。

「いきなり逃げようとするなんてひどいじゃないか」

「だって、零さんが…」

「初めての朝くらい、イチャついてもバチは当たらないだろう」

初めて。

そうだった。

昨日、私は零さんと…。

「どうして顔を隠してしまうんだい?」

「無理…無理です…」

両手で顔を覆い隠すが、顔が火照っているのがわかる。
とてもじゃないが、零さんの顔を見られない。

「なまえ、俺を見て」

手を外されて、おずおずと零さんの顔を見る。
そこには輝くばかりの美しい微笑が浮かんでいた。

「俺はなまえとこうなれて幸せなのに、君は違うのか?」

「私、私も、幸せです。幸せすぎて死んでしまいそうなくらい」

「死なれるのは困るな。君にはこれから先もずっと俺と一緒にいてもらわなければいけないのだから」

私を見つめる零さんの目がちょっと怖い。

でも今は幸せな気持ちのほうが勝っていた。

「零さんとずっと一緒にいます。約束します」

「うん、破ったら針千本だよ」

小さい頃、一緒に遊んでくれた零さんと何かで約束するたびに言われていた言葉。
懐かしいそれに、自然と顔がほころんだ。

「零さんこそ、私を置いてどこにもいかないで下さいね」

「ああ、約束する」

零さんと指と指を絡める。

「誓って、君より先には死なないよ」

置いて逝かれる悲しみを知っている零さんだからこそ、重い言葉だと思った。

この人は、私のために生き延びようとしてくれている。

どこか、先に逝ってしまったみんなのところへ行きたがっているようなところがあった零さんだから、生きようとしてくれていることが嬉しくて、涙が滲んだ。

「全部終わったら、結婚しよう」

「はい…はい、零さん」

「必ず幸せにする」

それは私の台詞だ。

零さんには必ず幸せになってもらわなければならない。

お兄ちゃんや、松田さん達の分も。

だから、絶対に無理はしないで下さいね。


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