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「トロピカルランドですか?」

「ああ。行きたいって言ってただろう」

「それは…でも、零さんはお仕事が」

「その日は夜から組織の仕事だ。夕方に帰れば充分間に合う」

トロピカルランドか…。
以前、お兄ちゃん達と遊園地に行ったことを思い出した。
あの頃は、まだ皆がいた。
伊達さんや松田さん達がいて、零さんはそれこそ寂しさなんて感じる暇もなく、忙しくも楽しく充実した日々を送っていたはずだ。

「今回は俺独りだけどな」

零さんも同じことを考えていたのだろうか。
瞳を伏せて少し寂しそうに微笑んでみせた。

「独りじゃありません。私が一緒です」

私は堪らず零さんに抱きついた。

「なまえ…」

「零さんは独りぼっちじゃないです。私が側にいます。ずっと、ずっと一緒にいます」

「…ごめん」

零さんに抱き締め返される。
ちょっと苦しいくらいに、ぎゅっと。

「気を遣わせてしまって悪かった。保護者失格だな」

「そんなことないです。零さんがいてくれて、本当に良かった。私のほうこそ、零さんがいなかったら今頃独りぼっちになっていました」

困ったように微笑んで背中を撫でてくれる優しい零さんを何とか元気づけたくて、必死に言葉を探す。

「お兄ちゃんみたいに頼りにならないかもしれないけど、もっと私に甘えて下さい。私、頑張りますから」

「なまえ」

「弱気になったっていいんです。どんなに完璧に見える人だって、寂しくなる時や悲しくなる時があって当然なんですから。つらい時は言って下さい。独りで我慢しないで…」

「ありがとう」

零さんのサラサラの髪が首筋をかすめる。
くすぐったいと感じるより前に、零さんは私から身を離した。

すぐ近くから綺麗な青い瞳に覗き込まれて、頬が赤くなる。

「君がいてくれて良かった」

「零さん…」

「君さえ側にいてくれれば、俺は」

言葉は最後まで紡がれることなく、零さんの唇が私のそれに重ねられた。

最初はただ触れるだけだったキスが、深く、情熱的なものへと変わっていく。

「愛してる」

初めて会った時から好きだった人。

憧れて、憧れて、でも、決して親友の妹以上の存在にはなれそうもないと諦めていた人が、今、私を求めてくれている。

そのことが嬉しくて、私は夢中になって零さんに応えた。

そうすることで、彼の孤独を埋めたいと思ったのだ。


その夜、私は初めて零さんに抱かれた。


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