「零さん…どうして?」 「君のためなんだ。嫌われても仕方がないかもしれない。だが、俺はどんなことをしても君を守りたい」 その結果がこれなのだろうか。 私は、自分の足首に着けられた足枷と、そこから伸びる長い鎖を見下ろした。 鎖は、ギリギリこの部屋の中を移動出来るくらいの長さだ。 「こうすれば、君はもうどこへも行けない。俺の側から離れずにいてくれる」 ベッドの上に座っている私の傍らに腰掛けて、零さんは私の髪をそれはそれは優しい手つきで撫でた。 強靭な精神力と柔軟な思考を併せ持つ零さんは、その実、とてもピュアな人だ。 その彼をここまで追い詰めてしまったのは私なのだと思うと、ただひたすら申し訳ない気持ちになった。 ごめんなさい。 ごめんなさい、零さん。 「なまえ」 「なまえ」 「なまえ」 「愛してる」 何度も繰り返し名前を呼び、愛の言葉を口にする零さんを見ていられなくて、私は目を閉じて身を震わせた。 ──というところで、スマホのアラームが聞こえてきて目が覚めた。 何のことはない。 全ては私が見た身勝手な夢だったというわけだ。 あの高潔な零さんがそんな真似をするはずがない。 勝手に不安になって、勝手に疑心暗鬼になった私の弱い心が見せた幻のようなものだ。 「はぁ…」 こんな馬鹿な夢を見てしまって、零さんに申し訳がない。 夢の中でそうしたように、繰り返し謝罪したい気分だった。 あんな夢を見てしまったのは、この前の遠隔操作アプリがどうのという教授の話のせいだろう。 仮に私のスマホに本当にそんなアプリがインストールされていたとしても、私は零さんを責める気にはなれなかった。 お兄ちゃんのことがあるから……ひとえに私の身を案じての行動だとわかるからだ。 今日は、その零さんと一週間ぶりに会うことになっている。 あんな夢を見るほど弱気になっているようではいけない。 零さんに心配をかけないようにもっと頑張らなくては。 ベッドから起き上がった私は、恐らく涙の痕が残っている上に酷いことになっていそうな顔を洗うために洗面所に向かった。 そして、その夜。 「何か心配なことがあるんじゃないか?」 顔を合わせるなり、零さんは心配そうに私に尋ねてきた。 「大丈夫ですよ。勉強も人間関係も順調です」 「本当に?」 「はい。零さんこそ、この一週間無理してたんじゃないですか?」 「無茶な真似はしていないよ」 微妙に話を逸らすあたり、怪しい。 私達はお互いの表情から相手の真意を読み取ろうと探りあった。 やがて、零さんがにっこりと微笑んで言った。 「合コンをキャンセルしたのは正解だったね」 「零さんと約束しましたから」 普通に答えたけれど、言い当てられて内心心臓がバクバクだった。 零さんには本当に何もかもお見通しらしい。 「お腹がすいただろう?今日は腕によりをかけて夕食を作らせてもらうよ」 「ありがとうございます。私も手伝います」 「じゃあ、ニンジンの皮剥きをやってもらえるかな。包丁は危ないからピーラーで」 「もう、小さい子供じゃないんですから」 「万が一ということもある。君に傷でもつけたらあいつに申し訳が立たないからな」 久しぶりに会う零さんは、過保護に拍車がかかっていた。 |