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レポートを仕上げたところで、力尽きて眠ってしまっていたらしい。
半分寝ぼけたままスマホを手にすると、充電が切れてしまっていた。

最近、充電が切れるのがやたらと早い気がする。
バッテリーの問題だろうか。
それなら早めにショップに行って交換してもらわなければならない。

とりあえず今は大学に行く前に急いで充電しておかないと。

「あ、零さんから?」

充電しながらメールをチェックしていると、零さんからメールが来ていた。

『勉強のためとは言っても、夜更かしは程々に』

「バレてる……」

いかにも保護者らしい忠告に思わず苦笑してしまう。
お兄ちゃんというよりお父さんのようだ。

私なんかよりも零さんのほうがよほどハードなスケジュールをこなしているはずなのに。

「お疲れさまです。お仕事頑張って下さい」と返信してから、出掛けるための身支度にとりかかった。


「なまえ、なんでLINE見てくれなかったの?」

ぷりぷりと怒ってみせるのは、友人の友子だ。
大学へ行くと、すぐに彼女に捕まった。

「ごめん、充電切れてたの気づかなくて」

「それなら仕方ないけど……いつまで経っても既読つかないから心配したんだよ」

「うん、ほんとごめん」

二人並んで校門を通り、講義に向かう。
一時限目は同じ授業をとっているのだ。
他も殆ど被っているため、彼女とは一緒に行動することが多い。

「それで、どんな用事だったの?」

「この前話した合コンの件!向こうの幹事と話がついたから空いてる日を聞こうと思って」

「あ……ごめん。私はパス。行けないや」

「えー!?なまえ来るって言っちゃったよ!楽しみにしてるって言われたんだけど!」

「うん、ほんとごめん」

「今日そればっかな!」

「実は合コン禁止されちゃって」

「例の保護者の人?黙ってればバレないでしょ」

「うーん…ダメな気がする。すぐバレそう」

「なまえの保護者さん、エスパーか何か?」

「洞察力が鋭い人だから、何かの拍子にすぐ気付かれちゃいそうで」

「なにそれこわい」

結局、合コンの話はナシということに決まった。
申し訳ないけど、事情が事情なので仕方がない。

「あ、また充電切れそう」

「じゃあ、じいじのとこで充電してから帰ろう」

じいじというのは、真面目に授業さえ受けてさえいれば単位をくれることで有名な、生徒達に人気のおじいちゃん教授のことである。
試験で酷い点をとってしまっても、ちゃんと救済措置をとってくれることから、じいじと呼ばれて慕われている。

「じいじ、スマホ充電させてー」

友子が室内に入って行くと、教授はこころよく受け入れてくれた。
私達の分までお茶を淹れてくれたので、スマホを充電しながら暫しのティータイムだ。

「最近よく充電が切れるんだって」

「ふむ…どれどれ」

教授は充電中のスマホをためつすがめつしていたかと思うと、手で顎を撫でて唸った。

「もしかすると、追跡アプリを入れられているかもしれんぞ」

「追跡アプリ?」

「それを入れられていると、送信先に位置情報がわかる。最新のものだとスマホを起動している間に交わされた会話まで盗聴出来る遠隔操作アプリというものもある。私生活が筒抜けになるわけだな」

「うそ、こわっ!」

友子が大袈裟なくらいに怖がったので、教授はちょっと笑ってみせた。

「心当たりはあるかね?」

「いえ……まさか、そんな」

私は言いよどんだ。
ないわけではないけれど──でも。

「いくらなんでも、そこまでするわけない……よね」



「するさ」

ワイヤレスイヤホンから聞こえてきた呟きに答えて、“彼”はスマホを軽く指先で叩いた。

現に今もこうして君を見守っている。


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