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「これが俺のアドレスと番号。電話は繋がらないかもしれないから、何かあればメールしてくれ」

「はい、わかりました」

零さんと連絡先を交換したけれど、たぶん、私から連絡することは少ないだろう。
それはもちろん零さんの仕事の邪魔になりたくないからだ。

ポアロの仕事中もだが、バーボンとして組織の仕事の最中に連絡して零さんに余計な心配をかけることだけは避けたい。

潜入捜査が想像を絶する大変さだということは私にもわかる。
実際に潜入捜査の最中にお兄ちゃんを亡くしている私としては、零さんにはなるべく無理をしてほしくない。

「何か余計なことを考えているだろう」

「あ、いたっ」

零さんにピンと指先で額を弾かれる。

「何も心配はいらないと言ったはずだ。君は余計なことは気にせず、安心して俺に甘えていい」

「もう…子供扱いしないで下さい」

「まさか。ちゃんと一人前のレディとして扱っているさ」

零さんはそう言って笑うけれど、私からするとまだまだ“親友の妹”扱いを出ていない感じがして寂しい。

零さんにレディとして扱われるというのは、ベルモットのように車で送り迎えしてエスコートしたりする図をどうしても連想してしまう。

零さんは、彼がベルモットといるところを私に見られていたことは知らないはずだ。
通行人に紛れていたし、一応変装していたので。
お兄ちゃんがスコッチとして振る舞っていたように、バーボンとしての零さんの顔を見てみたかったのだ。

「零さん、もうそろそろ出掛けないと」

「まだ大丈夫だよ」

椅子に座っている零さんに、おいで、と誘われて、恥じらいながら彼の膝の上に座ると、背後からぎゅうと抱き締められた。

「なるべく不安にさせないようにするから」

「零さん?」

「どんな些細なことでもいい。気になることがあれば、すぐに言ってくれ」

「はい、頼りにしています」

「ああ。その代わりと言ってはなんだけど、君も俺を不安にさせないように努力してほしい」

「えっと、例えば?」

「なるべく一人で出歩かない。友人と出掛ける時は相手の素性を調べさせてもらう。もちろん、合コンなんかはもってのほかだ」

「お兄ちゃんより厳しいです…」

「当然だろ。俺は君の兄じゃない。言うなれば恋人候補なんだから」

「そこは、保護者だって胸を張るところじゃないんですか」

「保護者で恋人か、いいな」

零さんが私を抱えたまま玄関に向かう。

男性としては細身の零さんだが、さすが鍛えているだけあって、私ぐらいなら軽々と運べてしまうようだ。

「零さん…これ、小さな子になったみたいで恥ずかしいです…」

「ん?幼妻になった気分じゃなくて?」

零さんは意地悪く笑うだけで離してくれない。
ちなみに、今日の零さんの服装は爽やかな白いトップスにジャケットを羽織ったカジュアルなものだ。
これからポアロ勤務だからである。
かっこいい人は何を着ても似合うから目の保養になるなあ。

そうする内に玄関まで来ていたので、やっと下に降ろされ、零さんが靴を履く。

「ちゃんと戸締まりするんだよ」

「はい、零さん」

「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい。気をつけて」

零さんの手に頬を包まれて顔を上げさせられたかと思うと、ちゅ、と唇にキスをされた。

「ごちそうさま」

満足そうな顔をした零さんが玄関から出てドアを閉める。

やられた…!

ファーストキスだったのに!

もちろん、零さんはわかっていてやったに違いない。
あの満足そうな顔は、私の初めてを奪ってやったと言わんばかりだった。

零さんのばか!


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